<<連載もくじ はじめに>>
春の野草を食べよう
◆ふきのとう
ぼくのスキーシーズンは11月末〜4月上旬までとしつこいくらいに長いのだが、春は雪質もあまり良くないし、早々に切り上げて帰ることが多い。その帰り際の楽しみが「ふきのとう」探しだ。春、スキー場の帰り道などに、少し車を止めて道端を探してみてはいかがだろうか?雪解けの際から逞しく芽を出している様子がなんとも愛らしい。スキー場でなくても、ちょっと郊外へ行くと、茶畑の中や少し湿っぽい斜面に蕗が群生している。ふきのとうを一株見つけたらぜひその周囲を探そう。
まだ早春の樹冠が緑に覆われる前の僅かな期間を利用してふきのとうは芽吹く。太陽エネルギーを最大限活かすには、この「誰よりも早く」光合成を行うという戦略が最も効率が良いのだろう。そんなふきのとうの生存戦略に思いを馳せつつ、ほろ苦い天ぷらを塩で食べる。ちなみに京都の料亭などでは、このふきのとうのガク部分だけがペロッと2枚ほど出される(らしい)が、そんな少量を食べたところでふきのとうの真価は分からないだろう。まるごと天ぷらにし、サクサクした衣の下のふわふわの、それでいてふき特有の苦味を、まるごと味わいたい。京都の料亭の風情には勝てないかもしれないが、自分で摘んだ野趣あふれる天ぷらは最高の贅沢だ。
もしくは、ふきのとうを叩いて味噌と混ぜた「ふき味噌」もおすすめ。
◆たらの芽
経験上、街の公園の桜が咲いた1週間後がベストシーズンだ。「山菜の王様」と呼ばれる、本当に旨い山菜だ。天ぷらにするのが王道で、硬そうにみえる新芽の付け根部分も、ホッコリとした独特の歯ざわりになる。そして優しくも野趣あふれる、ウコギ科独特の苦味のバランスが抜群だ。たらの芽は、明るく切り開かれた土地を好んで育つ。例えば宅地造成された斜面や、新しく出来た林道の道端などが良いだろう。それまであった林などが伐採された後、「先駆種」として真っ先に生育してくるのがこの種の特長だ。ぼくはそれっぽい場所をみつけたら、新緑に覆われる前の季節に林道を散策しながら探し、幾つか目星を付けておく。冬であればその特徴的なトゲトゲの幹が、そして夏過ぎであれば、放射状に咲く白い花が目立つ。
しかし最近は、なかなか大きな株がみられなくなってしまった。子どもの握り拳くらいの大きなたらの芽を目指すのであれば、林道を車で走って探すくらいではなかなか見つからない。ちょっと崖を登って沢筋を降りて、ということをしてこそ、「子どもの握り拳」サイズにありつける。ぼくは毎年たらの芽採りの時、トゲで必ずジーパンかTシャツを破ってしまう。もはやちょっとした冒険だ。破れても良い服装でチャレンジして欲しい。
天ぷらにして、ビール。というのがやはり最高!軽くゆでて胡麻和えにし、キリリと冷えた日本酒で、というのもいい。
◆たけのこ
たけのこが採れるシーズンがやってくると、本当に毎日たけのこが食卓に並ぶ。「もうそろそろあきた〜」と子どもがブツブツ言うくらいだから相当だ。その季節以外は全くといっていいほど食べないのだから、「まあ良いじゃないの」となだめつつ、今年もその季節が待ち遠しい。
たけのこ掘りは、大きな道具と腕力がわりに必要だ。そのうえ「たけのこ採るべからず」という看板も多い。しかしながら最近では都市部の公園の竹林整備という名目でたけのこを掘らせてくれるイベントも数多くある。こうしたイベントをこまめに探し参加してみることをお勧めしたい。
さて、そういったイベントで大きなたけのこを掘るポイントを一つ。ケチらず本職向きの「筍掘り鍬」で勝負すること。これに尽きる。ぼく愛用の「筍掘り鍬」は「金象印 竹の子堀鍬」。子どもの砂場遊び用のスコップや家庭菜園用の手鍬などすぐにダメになってしまう。ここは思い切って「打ち物」の「筍掘り鍬」を買ってしまおう。6~7,000円するが3年も使えば十分に元は採れる。何より掘りたてのたけのこを焼いたり、アク抜きをしてあっさりと土佐煮にでもして食べてみれば、「そんな大層な道具、本当に必要なの?」と言っていた奥さんも手のひらを返し、「やっぱり道具が良いとたけのこも美味しいわね」と顔もほころぶことだろう。だからお父さんは、掘って持ち帰って米ぬかと唐辛子でキチンとアク抜きをするところまでが仕事だと思って、ぜひがんばって欲しい。
ぼくが好きな食べ方の筆頭は、掘りたてを蒸し焼きにすること。苦味が残っていておいしい。時間が経っていれば、キチンとアク抜きをし、筍ごはん、わかめと合わせて若竹煮、鰹節の風味を活かした土佐煮などが定番。我が家では2週間ほど続く「たけのこ生活」の飽き防止の為に、スパゲッティから中華から、ありとあらゆる料理に使う。それもまたいい。
道具について
カゴ、ざる、簡単なナイフ、新聞紙、ビニール袋、軍手。採った山菜は水で湿らせた新聞紙で包み、ビニール袋に入れて持ち帰ると鮮度がまあまあ保てる。
食べられる野草の見分け方
今回は僅かな種類しか紹介できなかったが、「図鑑を見ても野草なんて見分けがつかないよ」というお父さんも多いのではないかと思う。そういった方へのアドバイスをひとつ。それは、野山でビニール袋を持って歩いている方に声を掛けてみること。「なにが採れるんですか?」と尋ねると、みんな親切に「これはね・・・」と得意顔で教えてくれる。
5月、岐阜県北部の山岳地域でネマガリタケ(チシマザサの新芽、雪深い地方では「たけのこ」と呼んで重宝する)を探していた時のこと。地面ではなく、樹冠を眺めているご夫婦がいる。「なにを採っているんですか?」と聞くと「朴の木」の「朴葉」の新葉だという。「これで五目ごはんを包むと良い香りがするのよ〜」と教えていただいて以来、秋の落ちた朴葉で味噌を焼く「朴葉味噌」と並ぶ我が家の楽しみになった。こういった地元の方との交流を通じ毎年一種類ずつでも野草とその食べ方を覚えていく、というのが案外一番の近道かもしれない。
これまでなんとなく眺めていた風景が、食べる喜びを知った途端、生育環境といったものにも非常に敏感になる。「あれ?このあたりはたらの芽がありそうだぞ〜」こうなればしめたもの。山菜採りは実は「より深く自然を知る」ための一番の近道だ。この春、ぜひ野草を口にして、自然を楽しんで欲しい。
ぼくのスキーシーズンは11月末〜4月上旬までとしつこいくらいに長いのだが、春は雪質もあまり良くないし、早々に切り上げて帰ることが多い。その帰り際の楽しみが「ふきのとう」探しだ。春、スキー場の帰り道などに、少し車を止めて道端を探してみてはいかがだろうか?雪解けの際から逞しく芽を出している様子がなんとも愛らしい。スキー場でなくても、ちょっと郊外へ行くと、茶畑の中や少し湿っぽい斜面に蕗が群生している。ふきのとうを一株見つけたらぜひその周囲を探そう。
まだ早春の樹冠が緑に覆われる前の僅かな期間を利用してふきのとうは芽吹く。太陽エネルギーを最大限活かすには、この「誰よりも早く」光合成を行うという戦略が最も効率が良いのだろう。そんなふきのとうの生存戦略に思いを馳せつつ、ほろ苦い天ぷらを塩で食べる。ちなみに京都の料亭などでは、このふきのとうのガク部分だけがペロッと2枚ほど出される(らしい)が、そんな少量を食べたところでふきのとうの真価は分からないだろう。まるごと天ぷらにし、サクサクした衣の下のふわふわの、それでいてふき特有の苦味を、まるごと味わいたい。京都の料亭の風情には勝てないかもしれないが、自分で摘んだ野趣あふれる天ぷらは最高の贅沢だ。
もしくは、ふきのとうを叩いて味噌と混ぜた「ふき味噌」もおすすめ。
◆たらの芽
経験上、街の公園の桜が咲いた1週間後がベストシーズンだ。「山菜の王様」と呼ばれる、本当に旨い山菜だ。天ぷらにするのが王道で、硬そうにみえる新芽の付け根部分も、ホッコリとした独特の歯ざわりになる。そして優しくも野趣あふれる、ウコギ科独特の苦味のバランスが抜群だ。たらの芽は、明るく切り開かれた土地を好んで育つ。例えば宅地造成された斜面や、新しく出来た林道の道端などが良いだろう。それまであった林などが伐採された後、「先駆種」として真っ先に生育してくるのがこの種の特長だ。ぼくはそれっぽい場所をみつけたら、新緑に覆われる前の季節に林道を散策しながら探し、幾つか目星を付けておく。冬であればその特徴的なトゲトゲの幹が、そして夏過ぎであれば、放射状に咲く白い花が目立つ。
しかし最近は、なかなか大きな株がみられなくなってしまった。子どもの握り拳くらいの大きなたらの芽を目指すのであれば、林道を車で走って探すくらいではなかなか見つからない。ちょっと崖を登って沢筋を降りて、ということをしてこそ、「子どもの握り拳」サイズにありつける。ぼくは毎年たらの芽採りの時、トゲで必ずジーパンかTシャツを破ってしまう。もはやちょっとした冒険だ。破れても良い服装でチャレンジして欲しい。
天ぷらにして、ビール。というのがやはり最高!軽くゆでて胡麻和えにし、キリリと冷えた日本酒で、というのもいい。
◆たけのこ
たけのこが採れるシーズンがやってくると、本当に毎日たけのこが食卓に並ぶ。「もうそろそろあきた〜」と子どもがブツブツ言うくらいだから相当だ。その季節以外は全くといっていいほど食べないのだから、「まあ良いじゃないの」となだめつつ、今年もその季節が待ち遠しい。
たけのこ掘りは、大きな道具と腕力がわりに必要だ。そのうえ「たけのこ採るべからず」という看板も多い。しかしながら最近では都市部の公園の竹林整備という名目でたけのこを掘らせてくれるイベントも数多くある。こうしたイベントをこまめに探し参加してみることをお勧めしたい。
さて、そういったイベントで大きなたけのこを掘るポイントを一つ。ケチらず本職向きの「筍掘り鍬」で勝負すること。これに尽きる。ぼく愛用の「筍掘り鍬」は「金象印 竹の子堀鍬」。子どもの砂場遊び用のスコップや家庭菜園用の手鍬などすぐにダメになってしまう。ここは思い切って「打ち物」の「筍掘り鍬」を買ってしまおう。6~7,000円するが3年も使えば十分に元は採れる。何より掘りたてのたけのこを焼いたり、アク抜きをしてあっさりと土佐煮にでもして食べてみれば、「そんな大層な道具、本当に必要なの?」と言っていた奥さんも手のひらを返し、「やっぱり道具が良いとたけのこも美味しいわね」と顔もほころぶことだろう。だからお父さんは、掘って持ち帰って米ぬかと唐辛子でキチンとアク抜きをするところまでが仕事だと思って、ぜひがんばって欲しい。
ぼくが好きな食べ方の筆頭は、掘りたてを蒸し焼きにすること。苦味が残っていておいしい。時間が経っていれば、キチンとアク抜きをし、筍ごはん、わかめと合わせて若竹煮、鰹節の風味を活かした土佐煮などが定番。我が家では2週間ほど続く「たけのこ生活」の飽き防止の為に、スパゲッティから中華から、ありとあらゆる料理に使う。それもまたいい。
道具について
カゴ、ざる、簡単なナイフ、新聞紙、ビニール袋、軍手。採った山菜は水で湿らせた新聞紙で包み、ビニール袋に入れて持ち帰ると鮮度がまあまあ保てる。
食べられる野草の見分け方
今回は僅かな種類しか紹介できなかったが、「図鑑を見ても野草なんて見分けがつかないよ」というお父さんも多いのではないかと思う。そういった方へのアドバイスをひとつ。それは、野山でビニール袋を持って歩いている方に声を掛けてみること。「なにが採れるんですか?」と尋ねると、みんな親切に「これはね・・・」と得意顔で教えてくれる。
5月、岐阜県北部の山岳地域でネマガリタケ(チシマザサの新芽、雪深い地方では「たけのこ」と呼んで重宝する)を探していた時のこと。地面ではなく、樹冠を眺めているご夫婦がいる。「なにを採っているんですか?」と聞くと「朴の木」の「朴葉」の新葉だという。「これで五目ごはんを包むと良い香りがするのよ〜」と教えていただいて以来、秋の落ちた朴葉で味噌を焼く「朴葉味噌」と並ぶ我が家の楽しみになった。こういった地元の方との交流を通じ毎年一種類ずつでも野草とその食べ方を覚えていく、というのが案外一番の近道かもしれない。
これまでなんとなく眺めていた風景が、食べる喜びを知った途端、生育環境といったものにも非常に敏感になる。「あれ?このあたりはたらの芽がありそうだぞ〜」こうなればしめたもの。山菜採りは実は「より深く自然を知る」ための一番の近道だ。この春、ぜひ野草を口にして、自然を楽しんで欲しい。