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コ ー ヒ ー フ ロ ー ト

coffee

今年はコーヒーフロートを1度しか飲まずに夏が終わってしまった。
それはスイカを食べはぐってしまったとか、
浴衣を着なかったというのと同じくらい、
私の中では夏の重要な項目をひとつ逃したことになる。
食い意地が張っているからか、9月も後半にさしかかるというのに
まだそのことが気になっていて、
気持ちのどこかは夏に置き去りのままになっている。

コーヒーフロートはコーヒー豆とアイスクリームさえあれば、
いつだって作れるし、いつだって飲める。
何も無理やり夏のものにする必要もないのだけど、
なんとなく自分の中では「夏限定」の飲み物になっている。
それもこれもおいしいコーヒーフロートのいれ方を教えてくれた
ある人の影響を受けたからだと思う。

はじめてそのコーヒーフロートを作ってもらったときには、
残りが少なくなると無くなってしまうのがもったいなくて、
まるで子供のように最後の2,3口をちびちびスプーンですくって食べた事を覚えている。
グラスの底が見えてしまうと、横でまだ食べている友人をうらめしい目つきで見たりして。
とにかくそれぐらい美味しかったのだ。

彼がその美味しいコーヒーフロートを作ることは、
日頃お世話になっている人へのお中元代わりになっていた。

「今年はまだでしょうか?」という催促に

「まだまだ」

と、ひとこと。
お中元の催促もなかなかできないことだけれど、
それを強気で断る方もなかなかだ。
毎年のようにじりじりと待っていた人はきっと多かったと思う。

「まだまだ」が「そろそろ」になるには
「もう限界!」という暑さが続いた頃。
コーヒーフロートに旬や食べごろというものがあるのだとしたら、
その頃だというのだ。

とろんととろみを感じるくらい濃くいれたアイスコーヒーに、
ほんのちょっとガムシロップで甘みを加えておいてから、
ハーゲンダッツのバニラアイスをたっぷり乗せる。
ハーゲンダッツだからといって、ここでケチケチしちゃいけない。
最後にまたガムシロップとコーヒー用のミルクを上からかけて出来上がり。

甘いのはしつこくなるからといって甘味をつけないと、
コーヒーとアイスの味がうまく交わらない気がする。
その両方のつなぎ目の役をしてくれるのが甘味とミルクというか・・・
アイスクリームとコーヒーの境にできる、
コーヒー味のシャリシャリした氷もたまらない。
食べ終わるとスーッと汗がひいて、コーヒーの苦みがいい感じの余韻となって残る。

汗がポタポタと流れ落ちるくらいの時期に食べた最初のコーヒーフロート。
その印象があまりにも強くて、毎年あれこれ試しているけれど
いつまでもあの味は超えられない気がする。
ましてや真夏以外の季節に食べたのではなおさらのこと。

どこかで「まだまだ」の声が聞こえていたんだろうか?
今年は夏が涼しかったから、そんな具合でコーヒーフロートの旬をのがしてしまった。




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