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コ ー ヒ ー 当 番

昨年から始めた山登り。
「始めた」だなんて偉そうなことを言っても、
寒さにめげて秋以降は登っていない。
今年に入ってからも「そろそろ、そろそろ」と
言っているうちにあっという間に4月になってしまった。
このまま終えてしまっては子供の頃に
長続きしなかった習いごとと同じじゃないか。

と言いつつ習いごとと同じにするつもりはない。
自分がやりたくて始めたことだし、
(あっそれは習いごとも一緒か!)
靴や道具も少しずつだけど揃えたし。
(あっそれも習いごとと一緒か!)

一緒かもしれないけれど、
とにかく自分では全く別のことと思っている。

駅のホームで電車を待っているときとか、
ボケーっとしているときなどにふと思い出す山の景色。
自分が無力でちっぽけなことを思い知らされる分
素直に委ねられる心地良さ。
山に入ったとたんにぐるりと自然に囲まれるあの感覚は
普段の生活ではまず味わえない。
だからなかなか頻繁に行くことは叶わないけれど、
ふとした拍子に「山へ行きたい」という気持ちが
ふつふつと沸いてくる。

山好きの友人たちは
「頂上で食べるものや飲むものは
何でも美味しいんだよね」と
口を揃えて言っていた。
山へ登るまでは
「ふぅん。そんなもんですか」
などと言っていた自分もすぐさま同じ台詞を口にした。

美味しさが3割増しくらいになるというのか。
ちょっとジャンクなものだって
不思議となんでも美味しいのだ。
試しに頂上で食べたインスタントラーメンを
家でも食べてみたけれど、
同じ味がしなくてがっかりした。

ペーパードライバーで山登りはビギナー。
そんな私は役に立てることがない。
せめて足手まといにはならないように
気をつけようと思って初登山は参加した。
それでも「これぐらいなら」と、
コーヒー当番を買って出てみた。

道具はどうするか。
シルバーのポットは重いので却下。
かさ張るミルをリュックに
詰め込むわけにもいかない。
どれもこれも普段通りとはいかないけれど、
限られた条件に合う道具を見つけるというのが
かえって面白い。

今のところコーヒー豆は
家で挽いたものを密閉袋へ入れ、
カップは木でできた子供のお椀のようなもの。
アウトドアショップでは
アルミのかわいいケトルを見つけた。
スウェーデン製。しかも安い。
お値段なんと2000円也!

あとはペーパーとプラスチックのドリッパーを
持って行けば、我がワンゲル部の先輩方の
ガスコンロをお借りして頂上で美味しいコーヒーが
飲めるのだ。
アルミのケトルは小さいからすぐお湯が沸くものの、
キレが悪いのでお湯はこぼれるし、
思うようにいれるのは難しい。
たいていザバザバいれた、アメリカンタイプの
あっさりとしたコーヒーになってしまうけれど、
それだって十分美味しい。
なんたっていつもの3割増し。
みんなも美味しいと言ってくれるから
調子にも乗ってしまう。
人は褒められてのびるのだ。

その後はコーヒー当番が定着して
自分なりの一式を持って行っている。
そこへこの春念願のガスコンロが加わった。
coffee

「〜を始めるにはまず道具から」

まさにそのタイプ。
張り切っている。
が、ボンベをまだ買っていない。
・・・・・・。

そろそろ山へ行きたい。
山で深く深く深呼吸がしたい。







 

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