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タ ー ニ ン グ ポ イ ン ト

ターニングポイントってなんだろう?
山登りなら道標があるのでそこのことだろうし、
電車だったら行き先によって決まる分岐点のこと。

「人生の」などと言ってしまうと大袈裟だけど、
人が生きていく上でのターニングポイントは
たぶんその瞬間は気づかない。
後で振り返ったら「あ、あのときがそうだったかも」
とか、どちらに進むかすごくすごく迷って悩んだときなどは
「ひょっとしてこれがターニングポイントなのかな」
などと意識するのかもしれない。
でもそんなのは時間が経ってみないとわからない。
わかったところでそこへ戻ってやり直すこともできない。
だから選んだ道、自然に進んだ道を
信じてとにかくまっすぐ前に進むしかないと思っている。

coffee

ここのところ10年ほど前に出会った人たちに
久しぶりに会う機会が続いている。
それは偶然だったり、あることがきっかけだったりと色々。
ここ何年も会っていなかったし、メールや手紙のやりとりすら
していなかったという人でも、会った途端に忘れかけていた記憶が
スルスル深い穴から引きずり出されるように湧き出てきて、
時間など関係ないなと思うほど不思議と近い感じがする。

今から10年前といえばちょうど私が30歳の頃。
自分が進みたい方向はわかっているのに
思うように歩けもしないし、進めもしなかった頃。

友人に誘われて、文章を書くとあるワークショップに通い始めた。
マンションの中にあるオフィスの一角で行われていたワークショップ。
カルチャーセンターとも全く違う雰囲気で
年齢も職業もバラバラな人たちが集まって
コーヒーを飲みながら、ときには少々のアルコールを
頂きながら文章を書いていた。
いえ、本当のところ不出来な私はあまり文章を書かずに
そこに集まるおもしろい人たちとしゃべってばかりいた。

音楽の話や食べもののこと。それぞれの出身地や旅の出来事など
共通点はあまりない中で集まった人たちだというのに
お互いの話は興味深いものばかりだった。
コーヒーもそのうちのひとつ。

紙が配られ、文章を書き始める。
そこでいれられたコーヒーをはじめて飲んだときの
味は、なんともいえない驚きの美味しさだった。
忘れられないことのはずなのに、
そんなことも無意識のうちに記憶の箪笥の奥の方に
小さくたたんでしまい込んでいたらしい。
ちょっと忘れてた。

coffee

先日、ワークショップで出会ったIさんが
東京を離れるというので何人かで集まることになった。
食事をしながらお互いの近況を話し合って
懐かしい話に花を咲かせていたときに
コーヒーのことが話題にのぼった。

たった一杯のコーヒーがそうやって
ずっとみんなの記憶の中にあったのだ。
みんなの話を聞いていたらワークショップを
行っていた部屋の風景から匂いから
何から何まで記憶が甦って来た。
もちろん最初の一杯のコーヒーの味も。

ほんの半年か一年かの間でそのワークショップは終わり、
その後はそれぞれがそれぞれの方向に進んでいる。
私にターニングポイントがあるとしたら
あの場所なんだろうと思う。
一杯のコーヒーというのもそうなのかもしれない。

 

 

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