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ア ア ル ト コ ー ヒ ー

今はもう無くなってしまったけれど、
池袋にあったセゾン美術館で
「アルヴァ・アアルト展」が行われたことがあった。
展示内容が好きで学生の頃からよく訪れていた美術館だったけれど、
この展示を最後に閉館となってしまった。
美術館が閉館になった年はいつだったろう?
今からもう10年以上は経つだろうか。

アルヴァ・アアルト展ではスツールの脚のカーヴの構造や
ガラスのフラワーベース、アアルトの椅子が並べられた教会の再現や
建築写真など…。興味深い内容が多い中、私が惹きつけられたのは
学生時代のノートだった。
私のこと。書きとめられた授業の内容そのものに
興味が沸いたのではもちろんなく、
視線の先にあったのはノートのすみっこに書かれた落書きだ。
精巧なデッサン。それは落書きのレベルをはるかに超えたものだったけれど、
授業中にあれこれと想像を膨らませていた身としては、
学生時代の彼がグンと身近に感じられて、
口元がゆるんでしまうほど嬉しかったことを覚えている。

徳島にある「aalto coffee」の名前を友人からはじめて聞いたときに、
アアルトの椅子でもなく、有名な建築物でもなく、
ノートのすみっこの落書きをふと思い出した。
そして店主の庄野さんにはじめてお会いしたときには、
前から知っているかのように不思議と親近感を感じた。
年齢が同じだから?
そんな理由だけではきっと無いはず…と
これまた同じように感じたことを
庄野さんもご自身の著書の中で書いている。

coffee

徳島へはまだ行ったことがない私に庄野さんは
「何もないところですよ」なんて言う。
でもそこには「何もなくてもいいところですよ」
という言葉が含まれているように感じる。
in-kyoがある蔵前界隈も、人からどういうところと聞かれたら
私も同じように答えるかもしれない。

aalto coffeeの定休日は日曜日
in-kyoの定休日は日・月曜日
コーヒーが好きなのはもちろん、お酒も好き。
共通することがいくつかある。

ロマンチストだなぁと思う庄野さんの誕生日は七夕。
私は乙女座A型。
これは共通項なんだかどうだか…。

庄野さんはコーヒー教室を行う時に
「コーヒーをいれるときには笑顔でいれて下さいね」と
いう話を必ずする。
家でいれるのに眉間にシワを寄せて難しい顔をしながらいれていても
ちっとも楽しくないだろうから。
そんな庄野さんのコーヒー教室はみんなが楽しそうで
シアワセな空気に満ちている。

ちょっと薄いコーヒーになったとしても、
えぐみが出てしまったとしても、笑えるくらいの
余裕があってもいいんじゃないですか?ということを
言われている気もする。
なんだかホッとするというか、
気持ちのいいヌケ感がどこかにあるのだ。

徳島へ行ったことも、そして焙煎をしている
庄野さんの姿を間近で見たこともまだない。
それでも視界を遮るものは何も無い徳島の広い空が簡単に目に浮かぶ。
庄野さんの焙煎する豆はそんな空のもとで生まれている。
気持ちの良いヌケ感の理由を見つけに
いつか必ず徳島のaalto coffeeを訪ねてみようと思っている。


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