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コ ー ヒ ー ミ ル

道具がなければあるものを使うことで
自分の体はそのことに案外と慣れてしまうことに気づいた。
慣れてしまうというか、まぁそれしかないから
なんとかしようと使いこなしてしまうというか。

まずフライパン。
今でこそ大きめのものを買い足したけれど、
今の家では初めの数カ月は20cm弱の
小さなものだけで用を済ませていた。
それ以外の揚げ物や炒めものは深鍋があったから
それを使えばなんとかなっていた。

家には掃除機も無いのではたきとホウキ、
雑巾で掃除をしている。
掃除機を取り出してホースを取りつけてということ自体が
面倒くさいからこれは敢えて初めから決めたこと。
ホウキなら気になったときにササッと掃いてすぐ片づけられる。
この気軽さが気に入っているので
今の暮らしではたぶん掃除機は買い足すことはないだろう。

逆もある。
便利に自分が慣れてしまったこと。

電子レンジでチンとか。
洗濯機も全自動だし。
お風呂の給湯もボタンひとつでおまかせ。
便利だなって思ったのも始めのうちだけで、
簡単に慣れてそれが日常になってしまう。
進化したのか、退化したのかよくわからない。
こわいことなんだなって思った。

朝の慌しい時間の中で、コーヒー1杯をいれるのに
電動のコーヒーミルはとっても便利だ。
豆もダイヤルで簡単に調整ができて均一に挽ける。
それを手挽きのコーヒーミルに変えてみた。
何も考えずにコーヒーを入れる準備をしていると、
気づけば電動のコーヒーミルの方に体が向かっている。
体がその順序で覚えてしまっているらしい。
強制ギプスをはめるように意識して、
頭の中で手で挽くシミュレーションをして動いてみる。
と、3日も経てばなんてことはなく
元のようにスムーズにコーヒーを入れられる。
1人分だからさほど時間だってかからないのだ。

私が持っている手挽きのミルは、
もうずいぶんと永く使っているので
挽き具合も均一じゃなくなってきている。
でも挽く音は電動よりも静かだし、
ゴリゴリと豆が砕ける振動を手で受け取ることができる。
手回しのオルゴールのようにハンドルを回して「ゆっくり」を思い出す。
頭では知っていてもしばらく忘れてた。

短くした時間で何ができていたんだろう?
その分のゆとりは自分に生まれていただろうか?
進化なのか退化なのか。



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