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ブ リ ュ ッ セ ル の 朝 ゴ ハ ン


グラン・プラス広場。
何が催されているというわけでないというのに
町の中心のその場所には楽しげに人々が集っていて、
その様子を見ているだけでお祭りが始まるかのような
華やかさを味わう事ができた。

オランダ旅行の合間に足を伸ばしたブリュッセル。
現地で決めた宿泊場所は建物の一部がホテルになっている
ブラバン公爵の館で、世界遺産でもある広場に面して建つ
歴史のある建造物のひとつ。
が、もともとホテルとして建てたものではないからか、
ホテルの入り口は狭く、フロントも小さなカウンターだった。
「館」(やかた) の呼び名の通り、エレベーターも古いもので
体の大きなベルギー人が2〜3人も乗ればギュウギュウになるほど狭く、

ガガガガッ。ガクンッ。

といった不安になるような音と振動があってから動き出す有様。
ホウンテッドマンション?そんな印象だった。
「これでは部屋は期待できないか・・・」
との思いが頭をよぎったのも束の間、
案内された部屋の扉を開けると、
エレベーターのことなどすっかり忘れてしまうほど
広々としていて、広場に面して大きく開いた窓からは
陽の光が部屋を明るく照らし、乾いた風が抜けていった。

宿泊には朝食がついていて、簡単なチケットのようなものを手渡されたものの
入り口からするとどうもそれらしい場所は見当たらない。
私の心の内が手に取るようにわかるのか、ホテルマンのおじさんが
広場の向かいにあるカフェを指さして、
「あのカフェにチケットを渡すんだよ」
と教えてくれた。
教わった通りに広場を横断してカフェにチケットを渡した。
すると間もなくしてアツアツのコーヒーとパンのプレートが
私のテーブルに運ばれてきた。

隣のテーブルでは私と同じようにホテルの宿泊らしき旅人が
朝食を摂っていた。
「どこから来たの?」
「今日はどこへ行く予定?」
「あら、そのスカーフかわいいわね」
目覚めのコーヒーをお互い飲みながら
なんてことない会話をひとことふたこと交わし、
記念写真まで一緒に撮影した。

今振り返って思い返すと下町の風景にも
どこか似たような匂いがある。
「それだったらあの店に行けばあるよ」
見知らぬお客同士が何かのはずみで会話をしたり、
名前も素性も知らないけれど、いつもの時間に
顔を合わせる銭湯やモーニングへ行く喫茶店とか。

ブリュッセルにはコーヒーとも相性の良い
チョコレートの名店が小さな町にいくつも並んでいて、
散策に疲れると一粒だけを買って
ポンと口に放り込んで贅沢に味わっていた。
肝心のコーヒーの味はどんなだったかしら?
コーヒーの味までは記憶に残っていないけれど、
コーヒーが香る朝食の風景は昨日のことのように思い出される。


coffee



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