アノニマ・スタジオWeb連載TOP > かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~ もくじ > チャプター2 はじめに
文・写真・題字/中村家
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チャプター2
はじめに
随分と前のようでもあるし、つい先日のようでもあるのですが、わたしたち家族が「かぞくのブリコラージュ」と銘打って、暮らしを見つめなおし!夫の仕事で出た廃材を使って!必要だと思うものを自分たちの手で作り出していく!という活動を鼻息荒くはじめたのは2020年の春。コロナのパンデミックが始まった時でした。人生の転機と呼ぶべき出来事って、誰にとってもいくつかあると思うけれど、我が家にとって2020年の春はまちがいなく、そんな転機のひとつでした。空間デザインをしていた夫の仕事が見事にすっからかーーーんとなくなった時、不安もあったけれど、なんだか爽快だったのです。目を瞑って、矛盾を感じながら見ないふりしていたことたちに今こそ向き合って、暮らしを築き直そう!突如やってきた非日常に、わたしも夫も燃え上がり、やる気に満ち、ピンチはチャンスとばかりに「かぞくのブリコラージュ」は始まりました。
このへんてこな今この時と、わたしたちの変化を実録しなくては!とわたしは日々を書き留めて、だいたい1ヶ月にひとつ、家族でブリコラージュしたものの紹介とともに、記事にしていきました。
その頃、わたしはこう書いています。
「これからはほんとうに大切なことを、大切にする生き方をしていくんだ」と。
実録は2021年の夏の終わりに、庭に娘の小屋(部屋)というクライマックス的な大モノを建てるまで、書き続けました。
時はほんの少し流れて現在2022年秋。
あの頃の日々を、ちょっと先の未来(今)から見てみると、なんとも言葉にしがたい、不思議な気分になります。
どんな非日常でも、続けばそれは日常になっていく。
マスクも、検温も、クラスター続出、とかもいつのまにか日常の一部になったように、ブリコラする日々も、わたしたちにとっては日常になりました。ある意味、日常すぎて実録するまでもないな、と思ってしまうほどの日常です。
そして「暮らしを変える!」「生き方を変える!」と息巻いていた自分と夫には、ちょっと苦笑いのような顔にもなってしまうというか。
爆発的な怒りとか喜びとか、マグマのような感情もまた、永くは保ち続けられないもので、その瞬発的な一瞬ですべてをガラリと変化させるなんて、魔法みたいなこと、わたしたちにはできませんでした。
ブリコラージュで作ったものの、うまく使えなかったものもありました。使っていたら壊れたものもありました。
ブリコラージュしたものを直すためにホームセンターで買い物をするという本末転倒なことをしたり、直す気力もなく放置したり、記事として書いたものたちのその後にはスマートじゃないものごともたくさんありました。
仕事のあり方も納得のいくかたちに変えようと試行錯誤し、モメにモメ(そのへんはかぞくのブリコラージュの実録にも書いていましたが)、こうしよう!いや…こうしてみよう!やっぱりちがうかも!とトライ&エラー、そしてまたトライ!というような2年半でした。
ぜんぜん、思い描いたとおりにはいかないことがたくさんあったし、やってみたもののちがったなと思ったこともたくさんあった。
「かぞくのブリコラージュ」の日々を通してできたものたちと、変化した暮らしのかたちがキレイにまとまり、かたちになって、めでたしめでたし!といきたいところだったのに、そうはならなかった。
でも、何度も手を加え、直したりまた壊したりしたものたちがぎゅうぎゅうに詰まった我が家を見ながら、ふと思ったのです。
この家って、わたしたち家族みたいだなって。
いきあたりばったりで、思いついたら即行動。計画的じゃなくて、無駄も多い。
やりなおしだらけで、勢いまかせで、でもだからこそ退屈じゃない。
効率悪いかもしれないし、遠回りかもしれないけど、それらは全部やってみないとわからなかった。だから何度でも崩して、やりなおしてきた。
このつぎはぎは、暮らしの歴史で、家族の歴史。
そんなふうにも思えます。
「暮らし」や「家族」のかたちに答えなんてないから、考え探しつづけていきたいと今、思います。
簡単じゃないし、スマートじゃないからこそ、続けていきたい。
手の中にあるもの、身近にあるもの、それらを集めてつぎはぎしながら、暮らしや家族を築いていく。
なんどでもなんでも、やりなおして、また築き直していきます。
ブリコラージュって、ものづくりのことかと思っていたけど、わたしたち家族そのまんまを表しているようなことだったのかも、なんて思うのです。
このチャプター2では2022年の現在の我が家を、一部屋ごとに紹介しながら、暮らしや家族について、進行形で感じたことを綴っていきたいと思います。
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中村俵太(父/夫)
「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。
中村暁野(母/妻)
家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。
中村花種(娘)
繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期入り口の13歳。極度の内弁慶だったけれど藤野暮らしの中で壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。現在両親のやることなすこと、言うことスベテが気に入らない反抗期真っ只中。
中村樹根(息子)
マイペースでごきげんな6歳児。人類みな友達的オープンマインド。恐竜がだいすきで1日の半分、心は恐竜の世界へ。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。
バター(うさぎ)
花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。
家族カレンダー
中村暁野定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。
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