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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!
11 林檎椿はどんな味?
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フェリーターミナルの対岸に建つ「益久神社」の花手水が、島民のSNSで話題になっていたので、コーヒーショップを閉めてからお参りに行ってきました。
新型コロナウイルス感染防止対策で、手水の柄杓は撤去され、手水鉢に浮かぶのは、色とりどりの紫陽花。寒天で固めた和菓子のような姿に、心まで涼やか。鈴の緒のない拝殿で、お参りを済ませてから参道を振り返ると、夏至近い夕方の太陽に海辺の植物たちも、つやつやと照らされていました。
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夏祭りの類いは、軒並み中止、公営海水浴場も閉鎖となって、これまでにない静かな夏が始まっています。町立学校の夏休み期間は、幸い例年通り。旅行もままならない、旅人もほとんどやってこない、特別な夏がやってきます。
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沿道では、本格的な夏の到来を告げる林檎椿の実が赤く色づいてきました。
リンゴよりもふたまわり小さい、子どもの拳ほどの大きさで、枝をたわませてつやつやとたわわに実っています。その姿は、おいしそう以外の何物でもないけれど、硬い実はココナツを思わせるような繊維質でとても食べられたものではありません。
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一説には、ツバキシギゾウムシという、長い口を持った虫から種のそばに卵を産み付けられないよう、種を守るためにどんどん皮を厚く進化したそうな。
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赤い実が黒く色あせてくると、硬い実の下部3箇所に均等に筋が入って、そこがゆっくりと割けます。中から爪の先ほどの黒い種が地面に落ち、そのあとに、三又に大きく開いた実も役目を終えて枝から落下。「割山椒」と呼ばれる小鉢が、開いた椿の実にそっくりで、この器を目にするたび、私の頭に浮かぶのは、山椒の実ではなく、幼い日のままごとに使った椿の実なのです。
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林檎椿の実は、とても派手でよく目につく植物ですが、この夏、やけに目立つのが赤紫色のハマナデシコの花。「今年はこの花の勢いがあるなぁ」と、毎年、ゆるやかに変わる沿道の勢力。今年はこのハマナデシコが、やけに色濃く、数多く花を咲かせて、主張してきます。
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ハマナデシコによく似た色の紫キャベツを「縄文ファーム」(『Hello! 屋久島』p.55)で見つけたので、ザワークラウトを作ろうと、仕込んでみました。普通のキャベツに比べて、水分が少ない紫キャベツ。ちょうど使い切りたい去年の梅酢があったので、水分を足すつもりで、千切りの塩キャベツを詰めた瓶に注いだところ、まったく発酵が進まず。梅酢の防腐効果に感心しつつ、ザワークラウト改めピクルスとして、食卓に上らせています。
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『Hello!屋久島』
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高田みかこ(たかた・みかこ)
屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
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