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世界自然遺産、屋久島。「海上のアルプス」とも呼ばれ登山のイメージが強い島ですが、登らずとも楽しめる自然やスポットがたくさんあります。そんな屋久島の知られざる魅力を紹介している旅ガイド『Hello!屋久島』。屋久島の港、宮之浦で一湊珈琲焙煎所を営んでいる著者の高田みかこさんが、旬の屋久島情報をお届けします!
13 石敢當と若い竜。
予報よりも勢力を落としながら、島の西をかすめていった台風10号。
自宅の被害はなかったものの、コーヒーショップのあるフェリー乗り場に来てみると、見慣れた景色に少し違和感。両開きのスライドドアが、風圧で内側に倒れ、開放感あふれる様子になっていたのでした。
ビルの中は、吹き込んだ海水で磯の香り。壁のあちこちには、飛び散った観光ポスターが、張り付いています。ガムテープとタオルで入り口に目張りをしていたコーヒーショップも少しだけ浸水していて、カーペットを丸洗いするいい機会になりました。
台風明けの島は、すっかり洗われて、ぴかぴかの清々しい風情。盆栽の枝ぶりを整えるように、森は枝葉を落とし、軽やかに輝いています。
台風当日は、1〜3時間おきに発表される進路予報を待ちきれずに、何度もスマートフォンをチェックしながら、一昼夜部屋にこもって、暴風雨をやり過ごしました。
インターネットが普及する前の島で、台風情報といえば、ラジオが頼り。電気もすぐに止まっていたので、雨戸を締め切った暗闇の中、「並んだ? 並んだ?」と、雑音混じりのラジオと数日前の新聞の切り抜きから最接近の時刻を予測します。
学校は休み、布団は敷きっぱなしでお菓子も食べ放題。懐中電灯で影絵遊び。重たい木製雨戸の小さな節穴から漏れる光に手を近づけると、ピンホールカメラのように光は、小さくなっていきます。木造家屋の壁には時おり、ドンと風のかたまりがぶつかり、屋根瓦はカタカタと音をたて、畳を持ち上げるように床下からも風が吹き上げてきます。
それでも、台風を怖いと思った記憶はなく、過ぎ去った後、あたり一面に散り敷かれた葉っぱや枝、道路まで巻き上げられた砂や、濡れた町を照りつける太陽の眩しさばかりが思い起こされます。
台風予報の精度も上がり、好きなときに最新情報を引き出せるようになった現代ですが、わからないのが台風の被害。
屋久島の独特な地形ゆえかもしれませんが、台風の目からの距離で均等に風が当たるというよりは、一匹の竜が森や町を横断していくように、ごく狭い範囲に線状に鋭い風がぶつかるのです。
島の古い町には、十字路が少なく、突風を和らげるように道がクランク状になっていて、道の突き当たりに「 石敢當」なる魔除けの石が置かれています。元気に町を駆け回る若い竜が石敢當にぶつかってシュンとなっている様子を想像すると、ちょっとだけ大らかな心持ちになれるのです。
※石敢當:沖縄県では「いしがんとう(いしがんどう)」、鹿児島県では「せきかんとう」とも呼ばれる。
『Hello!屋久島』
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高田みかこ(たかた・みかこ)
屋久島の北の港町、一湊育ちの島ライター。東京の出版社に勤務したのちUターン。現在は、宮之浦のフェリービルディングで「一湊珈琲焙煎所」と一組限定の貸しコテージ「おわんどの家」を夫婦で営む。単行本の編集、里の取材コーディネイト、WEB サイト「屋久島経済新聞」「やくしまじかん」に執筆中。
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