第4回 トンボ 
~クロスジギンヤンマのヤゴ編~


 暑さを感じるようになると、庭にトンボがやってきます。最も多く見かけるのはオオシオカラトンボです。特に去年は、毎日、オオシオカラトンボのメスがラズベリーの支柱に留まるようになり、会えない日があると心配になるほどでした。

オオシオカラトンボのメス


オオシオカラトンボのメスは、黒と黄色のはっきりした模様


オオシオカラトンボのオス


オオシオカラトンボのオスは、濃いめの水色

 オオシオカラトンボによく似たシオカラトンボもよく見かけます。似ていますが、名前の通り、オオシオカラトンボの方が体が大きく、太く、ずんぐりとして見え、シオカラトンボの方が細身です。またメスは、黄色に小さな黒い斑紋はんもんが散在するので、ムギワラトンボとも呼ばれるそうです。

シオカラトンボのメス、ムギワラトンボ


シオカラトンボのオス

 近所に借りている畑では、イトトンボを時々、見かけます。細長く、繊細に見えるトンボです。

アジアイトトンボ

 トンボに毎日会うようになって、色の美しさ、飛行する姿のかっこよさが素敵だなあと思うようになりました。また、チョウと同じように、幼虫から成虫へと似ても似つかない姿に変貌を遂げることも気になり、ヤゴから育ててみたいと思うようになりました。

 でも我が家の近所にヤゴなんているのでしょうか? 私より詳しい息子に聞くと、学校のプールにいるよ!と即答が。3年生の時に、プールにいたシオカラトンボのヤゴを教室で育てたとのこと。それなら、学校でもらおうかと話していたのでした。

 さて、今年の春のこと。お隣に住む大家さんの池には、繁殖シーズンを迎えたアズマヒキガエルがたくさん集まっていました。カエルたちがなぜ集まるのかは、また後日ヒキガエルの回に書きますが、カエル目当てで何度か池を見学させてもらいました。たまたまカエルがいなかった日があり、子どもたちは持っていた小さな網で池の中をガサガサしてみることに。すくってもすくっても泥ばかりでしたが、その泥の中に何か動くものを発見。体調5センチほどの細長い黒い物体が出てきました。あ!ヤゴだ!と子どもたちは大騒ぎ。近所にいるのかな?と思っていたヤゴは、お隣さんにいたのでした。

大家さんの池にて


捕まえたヤゴ


大きく立派なヤゴです

 調べてみると、細長い形、平均的な体長から、クロスジギンヤンマが一番近いようでした。トンボは種類により、産卵場所の好みにかなりの違いがあるとのこと。クロスジギンヤンマは、木陰が多く、水草の多い小さな池や沼を好むとあり、大家さんの庭の池そのもの。池の周囲は庭木が茂り、池の中が見えないほど水草もたっぷり。まさにクロスジギンヤンマのための池です。ほかのトンボというと、例えばクロスジギンヤンマの近縁のギンヤンマは、大きめの開放的な池が好きなんだそう。トンボによって産卵場所の選り好みは相当激しいのですね。

ヤゴを観察する子ども達


図鑑で照らし合わせています

 ヤゴを見つけることができたので、飼ってみることにしました。本やネットで調べ、小さなプラケースに一日汲み置きしていた水道水、ヤゴが捕まれる棒や水草を入れるだけの簡単な方法にしました。問題はエサです。ヤゴは肉食、しかも生きているもの、動いているものしか食べないそう。近くに釣具店でもあれば、生きたイトミミズやアカムシなどを手に入れられますが、適当なお店が見つけられず。近所の熱帯魚屋さんで相談して、ヌマエビを与えてみることに。

 ヌマエビさんに申し訳ないと思いながら与えたものの、ヤゴたちはまったくの無反応。ヌマエビは、プラケースの中で楽しく泳いでいます。なぜだろうとさらに調べてみると、羽化直前のヤゴは絶食をするのだそう。どうやら捕まえたヤゴはいずれも、終齢幼虫でもうすぐ羽化するようです。

 羽化が近づいてくると、背翅はねのもとになる翅芽しがが発達してくるということも知りました。なるほど背中に小さな翅らしきものが見えます。そろそろ羽化することは間違いなさそうです。翅があると知ると、やはりヤゴとトンボは親子なのだなあと実感します。

ヤゴの背中に見える翅芽

 残念ながら、絶食する時期になっていたので、ヤゴの大きな特徴であるアゴが伸びる様子を見ることができませんでした。獲物を見つけると、瞬時に下唇かしんを伸ばし、鋭い牙で獲物を捕獲するのだそうです。捕獲仮面と呼ばれる、ヤゴだけが持っている仕組みとのこと。

ヤゴの裏側。首のように見える部分が、捕獲時に前に飛び出すそう

 ただ、生きたエサを用意しなくて良いのは、とってもラクでした。ヤゴを飼ってみたいけれどエサが心配というなら、捕まえたヤゴの中で最も大きく、翅芽が発達している個体を選べば良いと思います。水を変えるだけのお世話で済みます。

 ところで、クロスジギンヤンマのヤゴは、観察しようと近づくと、すぐに棒や水草に隠れてしまいます。光を当てたり、明るい場所で見ようとすると、そそくさと隠れてしまいます。とっても恥ずかしがり屋さんなのです。産卵場所も木陰や水草が多く、薄暗い場所ですから、隠れないと安心できないタチなのかもしれません。一方、開けた場所で卵を産むギンヤンマは、明るい場所も好きなのだそう。種類により、性質にもこんなに違いがあるのですね。私たちは毎日、観察するうち、すぐに隠れてしまう恥ずかしがり屋のヤゴが、すっかり可愛くなってしまいました。

棒の後ろに隠れようとするヤゴ

 さて、羽化のタイミングがやってくると、水中で暮らしていたヤゴが、水面に顔を出すようになります。あれほど隠れてばかりだったのに、棒につかまって顔を見せてくれるようになるのです。それから数日経つと、ヤゴはいよいよ成虫になるべく、棒を登りはじめます。号泣必須のドラマチックな羽化の様子は、次回、たっぷりお届けしますね。

顔を出すようになったヤゴ


クロスジギンヤンマ
見つけやすさ★★★
飼いやすさ★★★★
恥ずかしがり屋度★★★★★



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プロフィール

良原リエ

音楽家。アコーディオン、トイピアノ、トイ楽器の奏者として、Eテレ「いないいないばあっ!」の音楽をはじめ、映画やテレビ、他アーティストの楽曲などの演奏、制作に関わる。インテリア、庭づくり、ハンドメイド、リメイク、子育てなどライフスタイル全てが活動・表現の場になっており、親子、子ども向けのワークショップ、イベントプロデュースなども行っている。著書に「食べられる庭図鑑」「たのしい手づくり子そだて」「まいにちの子そだてべんとう」(アノニマ・スタジオ)「トイ楽器の本」(DU BOOKS)など多数。
instagram ID : rieaccordion


良原リエさんの本

食べられる庭図鑑

広い庭がなくても大丈夫! 小さな庭やベランダで始められる、家庭菜園や庭作りのアイデアをたっぷり紹介。「野菜」「ハーブ」「果樹」「雑草・野草」など、育てて楽しい、食べて美味しい植物88種と簡単なレシピを掲載。一年を通して自然に親しむ暮らしを提案します。





たのしい手づくり子そだて
―リメイクと遊びのアイデアブック―

子どもになにか手づくりして上げたいおかあさんたちに、もっと手軽に気楽に手づくりを楽しんでほしいという良原リエさんの想いが込められた、実用アイデアブックです。センスが光る古着の形や素材を活かして作る簡単リメイクは、ものを大事に受け継ぐ気持ちと、手づくりの楽しさや自由さを教えてくれます。子どもとのかけがえのない時間を手づくりでいっしょに楽しむ、季節ごとの遊びもご紹介しています。




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