第7回 セミ 
~幼虫の羽化編~

 今年の夏休みは息子とともにひたすらにセミを追いかけ、抜け殻を集め、調べまくりました。そうするうちに、初めて知ったことがたくさんあります。

 まず、セミを捕まえるのは意外と簡単だということ。セミに気づかれないように、そっと近づいて網をかぶせるだけ。手の届く高さなら、素手でも捕まえることができます。網を振り回したり、騒いだりせず、そっと行うのがポイントです。

庭でツクツクボウシを捕まえました

 セミの食べ物は何か知っていますか? なんとなく小さな虫でも食べているのかと思っていましたが、考えてみればセミが何かを食べてモグモグしているところを見たことがありません。それもそのはず、セミのごはんは樹液なのだそう。セミは細長く尖った口吻こうふんを持っていて、これを樹皮に刺して汁を吸うのだそうです。種類により、好きな樹木が違うのですが、例えば一番多いと思われるアブラゼミはサクラの樹液が好物なのだとか。息子が捕まえたアブラゼミを、試しに庭のサクラに留まらせてみると、すぐに口吻を突き刺して樹液を飲みはじめました。ああ、こんな風に食事をするのですね。知らなかったなあ!

サクラの樹液を美味しそうに吸うアブラゼミ


別角度。鋭い口吻がよく見えます

 幼虫は樹木の根の汁を吸っているのだそう。だから土の中にいるのですね。そういえば、セミの幼虫は長く土の中にいることが知られていますが、それはどれくらいの期間でしょうか? 私は7~8年だと認識していたのですが、実際はツクツクボウシが1~2年、アブラゼミで3~4年とのこと。思っていたよりも早く地上に出るようです。

 ところで、セミって飼えるのでしょうか? これはいろいろと調べましたが、なかなか難しいようです。成虫を飼おうとすると、1日程度で死んでしまうとか。そこで、一時的に観察するということにして、写真のようにしてみました。食事ができる環境を作らなければならないので、好みの樹木の周囲に、はねを痛めないよう大きな洗濯ネットを張りました。

サクラに洗濯ネットを巻き付けました

 さて、セミを探しにあちこち出掛けているうちに、さあこれから羽化しようという幼虫に出会うようになりました。晴れた日の、だいたい午後4時ぐらいから夜にかけて、土の中から出てきます。この時間帯に地面を注意深く見ていれば、うろうろしている幼虫に出会えるはずです。

 幼虫の多くは、木を登り始めます。翅を伸ばせる場所として、本能的に適した場所だと思うのかもしれません。しかしながら、木の表面というのは風に煽られやすいのです。頑張って登れよーと息子とエールを送っていた幼虫が、風に飛ばされて落下してしまう場面を幾度も見ました。

木に登る幼虫


落下してしまった幼虫

 かわいそうに思い、木や葉に留まらせてあげたりしましたが、その後、うまく羽化できなかった事例も見ました。羽化する場所がなかなか定まらないことで体力を消耗し、羽化本番に体力が残らないことが多々あるようです。

 実際、羽化不全の個体をたくさん見つけました。背中が少し割れたところで力尽きたもの、体が少し出ているところで終わっているもの、羽が半分しか出せなかったものなど、さまざまな羽化不全が。実際、6割ほどが羽化不全になってしまうそうです。半分以上がうまくいかないなんて、多すぎやしませんか? 厳しい現実を知ることになりました。

 息子は、この羽化不全の抜け殻もセミの大切な標本になると思ったようで、集めて持ち帰るようになりました。今回の自由研究では、最終的にレポートに加えて昆虫標本も作ったのですが、さまざまな形の羽化不全の個体も標本の仲間に入れることになりました。

羽化不全のツクツクボウシ。背中が割れたところで力尽きてしまったよう。瞳が悲しいです

 さて、幼虫がうまく成虫に羽化する様子を観察したい思いにかられ、まずは夜8時頃の公園に行ってみることにしました。夏休み中であれば、公園や神社などで羽化の様子が見られると思います。透き通った翅、白く輝くセミは、一見の価値があります。

公園で見たアブラゼミの羽化

 さらに、羽化を最後まで観察したいという気持ちになり、幼虫を持ち帰ることにしました。夕方に、地面を歩いている幼虫を探しました。すでに木を登りはじめている幼虫は体力を使っているので捕まえず、なるべく土から出たばかりの、まだ羽化場所の定まっていない幼虫に狙いを定めました。持ち帰る際にも虫かごの中で歩くなどして体力を消耗しないよう、木に留まらせたりすると良いようです。私たちはタオルでふんわりと包んで持ち帰りました。

 帰宅したらすぐに、網戸かカーテンに捕まらせます。幼虫はほどなくして羽化を始めました。その様子の一部始終を動画で捉えたので、100倍速でどうぞ。

アブラゼミの羽化の様子。100倍速

 セミもトンボと同様、ついさっきまで幼虫だったこともあり、なかなか殻を破ることができませんでした。割れそうで割れない、必死に内側から押し続けてどうにか破るという時間は、とても長い時間に感じられました。ようやく殻が割れて出てくると、真っ黒なつぶらな瞳が現れます。とても愛くるしい表情です。透明な色や縮んでいる翅もあいまって、まるで天使のよう。思わず息子と「かわいい!」と声に出していました。

 縮んでいた白い翅が徐々に伸び、伸びきれば一安心。その後はだんだんと色濃くなっていき、アブラゼミであることがわかりました。ここまでおよそ3時間半ほどでした。

 朝起きてすぐに見てみると、網戸近くの障子に留まっていました。観察してみようと息子が手を伸ばすと躊躇なく手に留まり、 しばらくイチャイチャタイムを楽しむことができました。その後、窓を開けて外の空気に触れされると、勢いよく空へと飛んで行きました。

羽化の翌朝のアブラゼミ。つぶらな瞳がかわいいです


元気に飛んでいきました

 夏になると誰もがセミの鳴き声を耳にするかと思います。身近な生きものですが、だからこそ知らないことがたくさんあったように思います。息子はこれらの経験を模造紙2枚にまとめ、昆虫標本も作り、自由研究として提出しました。存分にセミと向き合ったおかげで私たちは、飛んでいるセミを見るだけで何のセミか判断できるようになり、はるか遠くで鳴いているセミの鳴き声もキャッチできるようになりました。9月に入って涼しくなり、セミの鳴き声はほとんど聞かなくなりましたが、少し暑さが戻ると遠くでツクツクボウシの鳴き声が聞こえてくることもあります。

 セミは都会にもたくさんいて、身近だからこそ調べやすく、そして観察しがいがあると思います。ぜひ次の夏には、セミに着目してほしいなと思います。

セミの標本。このあと見つけた場所、日付、名前のラベルをそれぞれに貼って完成しました。左からアブラ、ミンミン、ツクツク、ニイニイ、クマ。上から成虫、抜け殻、一番下は羽化不全


セミのブローチ



セミ
見つけやすさ★★★★★
飼いやすさ
羽化の観察のしやすさ★★★★★



<<連載もくじ はじめに>>

プロフィール

良原リエ

音楽家。アコーディオン、トイピアノ、トイ楽器の奏者として、Eテレ「いないいないばあっ!」の音楽をはじめ、映画やテレビ、他アーティストの楽曲などの演奏、制作に関わる。インテリア、庭づくり、ハンドメイド、リメイク、子育てなどライフスタイル全てが活動・表現の場になっており、親子、子ども向けのワークショップ、イベントプロデュースなども行っている。著書に「食べられる庭図鑑」「たのしい手づくり子そだて」「まいにちの子そだてべんとう」(アノニマ・スタジオ)「トイ楽器の本」(DU BOOKS)など多数。
instagram ID : rieaccordion


良原リエさんの本

食べられる庭図鑑

広い庭がなくても大丈夫! 小さな庭やベランダで始められる、家庭菜園や庭作りのアイデアをたっぷり紹介。「野菜」「ハーブ」「果樹」「雑草・野草」など、育てて楽しい、食べて美味しい植物88種と簡単なレシピを掲載。一年を通して自然に親しむ暮らしを提案します。





たのしい手づくり子そだて
―リメイクと遊びのアイデアブック―

子どもになにか手づくりして上げたいおかあさんたちに、もっと手軽に気楽に手づくりを楽しんでほしいという良原リエさんの想いが込められた、実用アイデアブックです。センスが光る古着の形や素材を活かして作る簡単リメイクは、ものを大事に受け継ぐ気持ちと、手づくりの楽しさや自由さを教えてくれます。子どもとのかけがえのない時間を手づくりでいっしょに楽しむ、季節ごとの遊びもご紹介しています。




アノニマ・スタジオWebサイトTOP > たのしい生きもの観察|もくじ > 第7回 セミ ~幼虫の羽化編~