第9回 カブトムシ
~羽化編~
去年の4月のこと、カブトムシの幼虫たちの動きが活発になってきました。私は息子と話し合い、特別詳しくもない私たちが44匹も管理するのは無理がある、だからお友達に分けようと決めました。そして私が学校の保護者会の挨拶で、カブトムシの幼虫をもらってください!!!と猛アピール。おかげで、多数の親子が引き取りに来てくれました。
お友達には、オスとメスのツガイでお渡しすることに。オスとメスの見分けは、幼虫のお腹にあるマークでわかります。お腹の肛門側から2番目の線の上にVのマークがあるのがオス、何もないのがメスです。小さい頃はわかりづらいので、動きが活発になる3~4月中旬頃までにチェックするのがおすすめです。ただ、幼虫は体を常に丸めているので、無理矢理こじあけないようにしてくださいね。優しい力でも体を開いてくれることがあるので、その際にさっと確認するか、マットに潜ろうとすると体を伸ばすので、その際にも確認できるかと思います。
さて、幼虫はようやく半数の20匹になりました。大きめの飼育ケースに、幼虫の体の大きさを考慮しながら4~5匹ずつに分けました。気温が20度を超えるようになると、いよいよ羽化するために蛹室を作ります。蛹室とは、サナギになったカブトムシが過ごす部屋のこと。体から分泌液を出して土を固め、約2~3週間ほどかけて蛹室を作るのだそう。この蛹室が壊れてしまうと羽化不全の原因になるため、気温が20度を超え始める4月後半からは土を触らないことが大切。私たちは見守るだけの体制に入りました。
蛹室を作り終えると、サナギになります(蛹化)。ケースの端にちょうど蛹室を作っていたカブトムシがいました。無事にサナギになったようです。嬉しい!
観察していて驚いたのは、カブトムシのサナギがよく動くこと。蛹室の中でクルクル回ったりしています。チョウのサナギは触れると動くことはありますが、基本、じっとしています。どうしてこんなに動くのでしょう? 疑問に思い、調べてみました。
カブトムシのサナギは動くことで、近くの幼虫に対して音や振動を発信しているのだそう。自分の体液と土で固めただけの蛹室は壊れやすいので、周りの幼虫が近づいて来てもらっては困るからなのですね。そう知って、納得。ひとつのケースに4~5匹入れていたのですから、幼虫たちもさぞや心配だったに違いありません。これから羽化が待っているというのに、余計な体力を使わせてしまったのではと大反省しました。余裕があるなら、一つのケースに一匹がいいのではと思います。
さて、いよいよ羽化です。ですが私たちは、羽化している様子をしっかり見ることができませんでした。ケース越しの土の中は見えにくく、タイミングがわかりにくかったというのが正直なところです。
でも、なんとなく撮っていた写真にちゃんと写っていました。頭が黒くなっていて、羽の部分が茶色になっています。後から調べたところ、これは羽化直後とのこと。羽化直後は、頭の部分は成虫らしく黒いのですが、羽の部分は白いのだそう。その後、羽を乾かし、白から茶色へ、茶色から黒へと変化していきます。羽化後、1週間~10日ほどかけて、しっかり乾いて黒くなったところで土の上に出てきます。
立派なカブトムシの誕生です。やっぱりとても嬉しいものですね。
大きさはさまざま。立派なものもいれば、かわいらしい個体も。これは息子が全てチェックしていたことなのですが、小さな幼虫は小さな成虫に、大きな幼虫は大きな成虫になったとのこと。考えてみれば当たり前のことですよね。大きなカブトムシの成虫に会いたければ、幼虫時代に広々としたケースで、たっぷりとマットを与えて、たくさん食べさせて大きくすることだと思います。
中にはツノが曲がってしまったオスもいました。羽化不全ですね。でもとても元気で、長生きしました。
ところで、20匹中、18匹が成虫になりましたが、2匹が行方不明なのです。羽化失敗はよくあることだろうと思うのですが、影も形も見当たりません。おそらく何らかの原因で死んでしまって、もう土に還ってしまったのだと思います。硬い殻に覆われてもいないので、あっさりと土に還るのでしょう。
さて、ここからは息子と私が一番言いたかったことを書きます。成虫になったカブトムシを交尾させるかについて、息子とよくよく話し合いました。交尾させると次の世代が生まれます。私たちにとって嬉しくても、カブトムシにとってはどうなのかということを。
これまで完全変態を楽しませてもらったチョウ、トンボ、セミは成虫となったら、外に放していました。近所で生まれたので、近所に戻すことは問題ないと考えたからです。しかし、去年の夏にもらったカブトムシのツガイは青森産。となると、外に放すなら青森の、それも生まれた地域でないとダメだと思うのです。日本のカブトムシなら日本のどこにでも放していいだろうと考えている方も多いかと思いますが、日本はご存知の通り南北に長く、それぞれの地域の環境はまったく違います。日本の他の地域から、別の地域に生きものを放すことで、生態系が崩れる可能性があるのです。これは、国内外来種と呼ばれ、大きな問題になっています。
ならば、ずっとケースで飼えば良いのでは?と思うかもしれません。しかし羽を持つカブトムシは、ケースの中で飛ぼうとするのです。何度も羽ばたいてはケースにぶつかってしまう音を聴いてきました。その音を聞くたびに、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていました。そして、様子を見ようと息子がカブトムシを手に乗せると、さかんに交尾しようとしてきます。子孫を残すためには当たり前の行為です。その姿を見ていると、本当にこの環境でいいのかと考えざるをえませんでした。
飛びたいカブトムシを飛ばせてあげられない。交尾したいカブトムシを交尾させてあげられない。とても大きな問題だと思いました。だから息子も私も意見が一致したのです。この代で終わりにしようということ。
私たちはお友達に幼虫をもらってもらう時も、この話をしました。ずっと飼う気があれば交尾OK、そうでないならオスとメスをバラバラに飼い、外に放すのは禁止、を守ってくださいと。
私たちはそれなりに都会に住んでいて、カブトムシが簡単に見つかるような地域ではありません。でも近隣の公園で時々見つかることがあるそう。でもそれらの多くはきっと、誰かが放した個体ではないかと思うのです。実際にリサーチしてみると、幼虫が産まれすぎて公園に埋めに行ったという話をよく聞きます。そのカブトムシがどこから来たのかわからなかったとしても、遠い地域から来たカブトムシだとわかっていてもです。
国内外来種という言葉は、もしかしたら初めて聞く方もいるかもしれません。ぜひ、国内外来種について知ってほしいと思います。そして、ケースの中で一生を終えることがカブトムシにとってはどうなのか。よくよく考えて飼ってほしいなと思います。これが私たちの経験した上での感想です。
カブトムシ | |
---|---|
見つけやすさ | ★★ |
飼いやすさ | ★★★★★ |
羽ばたかせて あげたい度 | ★★★★★ |
<<連載もくじ はじめに>>
プロフィール
良原リエ
音楽家。アコーディオン、トイピアノ、トイ楽器の奏者として、Eテレ「いないいないばあっ!」の音楽をはじめ、映画やテレビ、他アーティストの楽曲などの演奏、制作に関わる。インテリア、庭づくり、ハンドメイド、リメイク、子育てなどライフスタイル全てが活動・表現の場になっており、親子、子ども向けのワークショップ、イベントプロデュースなども行っている。著書に「食べられる庭図鑑」「たのしい手づくり子そだて」「まいにちの子そだてべんとう」(アノニマ・スタジオ)「トイ楽器の本」(DU BOOKS)など多数。
instagram ID : rieaccordion
良原リエさんの本
食べられる庭図鑑
広い庭がなくても大丈夫! 小さな庭やベランダで始められる、家庭菜園や庭作りのアイデアをたっぷり紹介。「野菜」「ハーブ」「果樹」「雑草・野草」など、育てて楽しい、食べて美味しい植物88種と簡単なレシピを掲載。一年を通して自然に親しむ暮らしを提案します。アノニマ・スタジオWebサイトTOP > たのしい生きもの観察|もくじ > 第9回 カブトムシ ~羽化編~
Copyright(c) Rie Yoshihara & anonima-studio