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<<連載もくじ はじめに>>
自然あそび的ブックガイド
【野外生活・キャンプのための入門書】『冒険図鑑』さとうち藍:文 / 松岡達英:絵 福音館書店(1985)
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『冒険手帳』谷口尚規:著 / 石川球太:画(1972)
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小学生のときキャンプ仲間でメチャクチャ流行った一冊。オリジナルを紛失し、最近文庫本を買った。行間に溢れる冒険哲学と、イカした漫画にぐいぐいと引き込まれる。目次からして魅力的なものばっかり。
「キツネ、タヌキ狩りはまずドラ猫でトレーニング」
「テン獲りはふたりで行くな」
「かの女とキスできる口移し人工呼吸法」
「ノドが乾いたら道ばたの小石を口に入れる」
「日本人は『結ぶ』達人だった」
著者は自ら考えず作らず行動せずの「冒険の心」が欠如している現代に警鐘を鳴らす。
”「人間らしさ」とはなんだろうか?ぼくはあらゆる行動の原点に、自分自身の頭で下した判断をすえることだと考えたい。ひとが車を買えば自分も車を買い、ひとがボウリングをはじめれば自分もやるといった、「あなたまかせ」の生き方と正反対のものである。いいかえれば、たったひとり無人島にほうり出されたとき、どこまで生きられるかということだといってもいい。
こういう場合、頭よりからだがモノをいうように誤解しがちだが、けっしてそうではない。 ぼくたちの遠いご先祖が、体力だけでおそろしい猛獣に打ち勝ってきたのではないことは、いうまでもないだろう。現代の文明がピンチにおちいっているのは、一見「頭」の勝利があらゆる利便を提供しているようにみえて、そのじつひとりひとりの人間が自分の頭を使うことをまったくしなくなっているからだ。この本で冒険とよぶのは、じつは「人間らしさ」をとりもどすことなのである。”(本文より)
もう40年以上も前の本なのだが、今のぼくたちにも警鐘を鳴らしている気がしてならない。
『元気の出る山の食事』大森博:著 / 森寛子:絵 山と渓谷社(1988)
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「一応、料理のプロですが、山ではあまり手のこんだものは作ったことがありません。(中略)山で作るには多少面倒な料理もあるかと思いますが、その通りに作る必要はありません。みなさんが楽しく食事を作るヒントや手助けになってくれればそれだけで幸せです」
季節外れの大雪に見舞われた山行の初日。「ラム肉のビール煮」に失敗、カレー粉を入れて復活を願ったがそれも不味く、沈痛なビバーグ(露営)となったその翌日、この本で知った「ハムステーキハワイアン」の旨かったこと。今でもその対比がありありと脳裏に浮かぶ。
【自然観察のための入門書】
『ソロモンの指環―動物行動学入門』早川書房(1975)
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博士は、こう教えてくれる。
「生ある自然の真実は常に愛すべき、畏敬に満ちた美しさを持っており…自然について知れば知るほど…より永続的な感動を覚えることになる。」
ローレンツ博士の、生き物に対する愛情や飼育観、観察眼といったものは、子どもならだれもが生まれながらしにして持っているものだ。博士は大人になってもその愛情や姿勢を忘れず、さらに深い愛情を持って研究し、ユーモアあふれる文体で書いたのだ。だからぼくたちは少しばかりの懐かしさを感じ、素晴らしい本だと思うのだろう。
『昆虫 ちいさななかまたち』福音館書店(1974)
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ものごころついた時からいつも傍らにあった絵本。毎日この本を開いていたと思う。それくらい好きだった。美しい生態画が描かれ、生活環境が分かりやすく描かれている。年少くらいからの子どもに、生き物に興味を持ってもらうなら、一番の入門書になるだろう。やさしいタッチとやわらかい色合いで、ただただ美しい。この本を開くと、嬉しい気持ちが今でも込み上げてくる。
『自然観察入門』日浦勇 中央公論社(1975)
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「大阪のアサギマダラを調べる会」という長距離を移動するチョウを調査する会に小学生ながら入会し、野山を歩きまわったり、喫茶店で大人たちに混じってアサギマダラはどこから来てどこへ旅するのかを議論したりした。
先生が急逝されたとき、大の大人たちが号泣していた。ぼくも、大切なアサギマダラの標本を展翅針を抜いてお棺に入れた。子どもたちからはもちろん、老若男女から慕われていた先生だった。
いま自分の子どもと接するようになって、もっともっと勉強しておけばよかったと反省する。自然に対する造詣、そしてその眼差しを向ける愛情を、もっと持ちたいと思う。子どもとともに自然観察をしてみたいという方にはぜひ読んでいただきたい一冊。
【自然観察のための図鑑】
自然観察には図鑑がつきものだ。興味のある分野の図鑑から少しずつ読んでみてはいかがだろうか?以下はぼくの子どものころから愛用し、そして今でも普段使いしている図鑑たち。
ポケット図鑑各種
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特に樹木は葉形、樹形の全体感が掴めて、いい。大学の講義でも使われている教科書的なポケット図鑑。
以下は保育社のものより大きなサイズだが、いろいろと著者の特徴があって面白い。
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●小学館 『川・池の生物』菅野徹
夏の川遊びに。小学館のこのシリーズはイラストがいい。
●小学館 『自然観察シリーズ 日本のチョウ』海野和男 青山潤三
ぼくはこの本の影響でチョウが大好きになった。いまでも同定(種類を特定すること)に、観察にと活躍。
●山と渓谷社 『野外ハンドブック 魚 淡水魚編』桜井淳史
著者の愛情あふれる視点で写真が素晴らしい。地元の古老の話なども載っていて、日本の生物の多様性と古来からの関わりについて知ることが出来る。
●小学館 『フィールド・ガイド 山菜』中川重利
著者渾身の試食体験。植物全体の形、樹木全体の形も分かりやすい写真多数。
●小学館 『日本の野草』菅原久夫
これは春のフィールドに必携。近所の公園までの散歩道で花を見かけた時に。ちょっとした名前の由来もあって、うんちくを披露したくなるはず。
図鑑各種
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●学研の図鑑 『飼育と観察』
生き物を飼いたいとなったときにぼくはこの2冊を見比べて飼育にチャレンジしていた。ネットで検索してもいいのだが、こうやって本で見ると「おーこんな生き物も飼えるんか!」と意外な驚きがある。
【自然とのつながりを感じることが出来る本】
『完全版 自給自足の本』ジョン・シーモア:著 / 宇土巻子・藤門弘:訳 文化出版局(1983)
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大地をひらく
家畜を飼う
手作りと手仕事・・・
ぼくが趣味にしている菜園も保存食作りも、この本からその魅力を教わった。豚の屠殺の仕方など一見するとグロテスクなテーマも、イラストの力と著者の愛情あふれる眼差しで、魅力的に描き切っている。そして現代に通じる言葉が、巻頭にある。
「本来、人間と動物と植物から成り立っているこの世界は、実にうまく回り回っている。(中略)自給自足の生活では、むだなものは何もない。」
ちょっとでもこの本に近づいた生活を送っていきたい。気軽に絵本代わりにも読めるうえ、マニュアルとしてもきちんと使える。
『土を喰う日々』水上勉 新潮文庫(1982 単行本初版は1978)
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『色の名前』近江源太郎:監修 / ネイチャープロ:文 角川書店(2000)
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「鴇色はトキが飛ぶときに見せる風切羽の色に似たピンクで、女性の和服によく用いられる色でした。(中略)鴇色と聞いてこの風切羽の色を思い浮かべるこのとできる人は、多くはないでしょう。日本でトキが絶滅するときには、この色名もまた失われていくのでしょうか?」
あとがきにはこんなことが書かれてある。「昔から、人は自然の中で、花や空の色の微妙な変化を感じ取り、それぞれにふさわしい名前をつけて表現してきました。それは合成染料も化学塗料もない時代、たいへんな手間をかけて自然から色を得ていたからこそ生まれた感性なのかもしれません。」なるほど、人と自然のつながりはこんな視点からもあるのだなぁ、と感心する。
【冒険に夢を馳せる物語】
『十五少年漂流記』ジュール・ヴェルヌ(1888)
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『宝島』ロバート・ルイス・スチーブンソン(1883)
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『お母さんが読んで聞かせるお話』富本一枝:文 / 藤城清治:絵 暮らしの手帖社(1972)
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選んでみて「●●キャンプ場ガイド」などの本が一冊も入っていないことに気がついた。そういえばそういった本をほとんど読んだことがない。ちょっと偏った選択になってしまったことをお許し願いたい。どの本も読むと、直接的にも間接的にも「外に出たくてたまらなくなる」「ウズウズしてしまう」という本ばかり。本を読むことは、世界を広げること。本を読むことは、再び空の下、野山へ海へ川へ飛び出していくこと。少しでもその手助けになれば幸いだ。