アノニマ・スタジオWeb連載TOP > トークイベントレポート もくじ > 細川亜衣さん『朝食の本』発売記念トークイベント@無印良品市ヶ谷店 2019年9月24日


細川亜衣さん
『朝食の本』
発売記念トークイベント
@MUJIcom 
武蔵野美術大学
市ヶ谷キャンパス店
2019年9月24日




9月24日にMUJIcom 武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス店で行われた、細川亜衣さんの『朝食の本』刊行記念トークイベントのレポートを一部お届けいたします。

司会進行:編集担当・村上妃佐子
(アノニマ・スタジオ)

写真:在本彌生

――本日はみなさまお越しいただきありがとうございます。ちょうど今日から書店に並び始める新刊、『朝食の本』の発売記念イベントということで、著者の細川亜衣さんに熊本からお越しいただきました。それでは亜衣さん、よろしくお願いいたします。

『朝食の本』

みなさま、お越しいただきましてありがとうございます。この『朝食の本』は、私のちょうど10冊目の本です。今回は、旅や日々の暮らしを通じて自分の中に溜まってきたものを、「朝食」というテーマで伝えたいと思いました。

――昨日までの3日間、松本でイベントをされていたそうですが、どんな会でしたか。


長野県松本市で木工作家をされている、三谷龍二さんのご自宅のお庭で、この本の出版を記念して朝食の会と料理教室を行わせていただきました。三谷さんが新しく作った、漆を塗る工房のお庭が美しいのでそちらでの予定だったのですが、台風も来ていたこともあってご自宅のお庭で。
朝食の風景として真っ先に思い浮かぶのは、30代の頃何年か料理の研修で過ごした北イタリアのレストランでの朝食です。イタリアのピエモンテ地方というところで、ぶどう畑の丘が連なる風景が広がる小さな美しい村で、私はスタッフとしてそこにいたのですが、お客さんたちが座る庭の片隅に座って、アルプスの山を見ながら、ビュッフェスタイルの朝食からパンとチーズとバター、温かい飲み物をいただいて。研修の身でありながら豊かな時間を過ごすことができて、すごく幸せでした。

p10-11

この写真の朝食は、そのホテルの朝食をイメージしています。大きなパンと、季節のフルーツがどっさりそのままのかたちで盛られていて、あとはナッツと大きなケーキ、山で作られているチーズとバター、田舎風のパンやゆで卵、飲み物という風に、日本のホテルのように熱々のオムレツがでてくるような特別さは何もない朝食なのですが、取り方も自由で、どれだけ食べてもどれだけの時間を過ごしてもかまわない、というおおらかさが印象的で。それを何らかのかたちで松本で再現できたらと思いました。お菓子の仕事をしている友人にケーキやジャムを作ってもらって、地元のフルーツとパンを使ったお料理をお出ししました。

午後は、台湾の朝食の料理教室を行いました。台湾では粉を使ったもの、麺類や生地で包んで蒸したり焼いたりしたものがよく作られますので、そういうものをご紹介しました。三谷さんは松本に工房があり、日々を松本で過ごされています。いつもご自宅に泊めていただくのですが、お邪魔するときは、お互いにやることがたくさんあって忙しい中なのですが、朝は必ずゆっくりとダイニングルームで、そこにいるみんなで食卓を囲むんです。三谷さんが作られた大きな木の器に、切っただけのフルーツを盛ったり、焼きたてのパンを大皿に盛ったり。フルーツにパンにヨーグルトにコーヒーと、どんな方でも召し上がる定番の洋食の朝食メニューだと思いますが、盛り方や、みんなで囲む時間があるというだけで、すごく印象が変わるんです。今回も3日間、そんな朝食の時間を過ごすことができて、すごく印象に残っています。


p68-69 旅の朝食 台北

――今回、本には朝食をテーマとした77のお料理が収録されています。そのアイデアはどんどん湧いてきたんですか?


そうですね、はずしたメニューがたくさんありましたし、いくらでも思いつくといえば思いつきます。実は、うちでは娘が学校に出掛けるときにまず一人で食べて、私はその時点ではおなかがすかないので一緒には食べません。夫はほぼ何も食べない人なので、わたしが家で朝ごはんを食べるときは、誰もいないときに一人で食べるので、こんな風に並べたり手をかけたものは日常的には作りません。基本的にはトーストを焼いて、あとは飲み物くらいです。うちはプライベートのお友達だけでなく、展示会をするときに来てくださる作家さんなどお客さまをお迎えすることが多くて、いろいろな方と一緒に囲んで頂く朝食がすごく好きです。そういう時に食べてもらいたいものを季節ごとに考えて、朝食というテーマでいろんなものを一冊に集めたらいいだろうな、と思いました。

――地元の食材を使う、ということを前作『パスタの本』のときにも意識されていました。今、熊本に移られて10年ほどということですが、移住したことで変化されたのでしょうか。


p18-19 秋の果物にバター

この写真はうちの庭なのですが、このざくろと柿は庭でとれたものです。かなり前からある古い木で、どちらもかなりの老木です。もともと果樹が好きで、庭にいろいろな木を植えました。今回本の中でご紹介しているジャムなどは、わざわざ食材を買いに行って作るというよりは、たくさん実がとれるのでどうにかして食べよう、というものなんです。栗、梅、すももなどは、落ちていくのを見ているだけではもったいなくて、でも一気に食べることもできず、落ちて傷がつくとすぐに腐ってしまっておすそわけもできないので、すぐに加工しています。朝食の時間は甘いものを食べたくなることが多いのですが、そういう時に役立つものが庭にたくさんあるんです。もちろん市場にも、とれたての野菜や乳製品などいろいろ売っているのですが、引っ越していちばん実感しているのは、庭でとれるものの豊かさです。

――今回の『朝食の本』は、章立てなしに料理が連なっていて、秋の季節からはじまっています。そのなかに、7つの旅のエッセイや、季節を感じる「クリスマス」や「春のピクニック」のレシピが入っています。栗のレシピもたくさんありますが、栗の季節はちょうど今くらいですか。


うちの栗の木は手の届くところに実がないので、落ちた分だけをふたつみっつ拾うくらいなので、たとえば栗ごはんには少なくて、砕けた栗をみんなでわけあっているような感じです。熊本では、早ければ8月の下旬には栗が出回りますが、まだ甘みがそんなに乗っていないんです。夫の陶芸の工房がある山のほうに栗の木がたくさんあるので、時間があると拾いに行きます。自分で食べるというよりは、作ったものを食べていただくのですが、9月にとれたものは、かびないように冷蔵庫に入れて、11月くらいまで置いておくとすごく甘くなってくるんです。虫が入ってしまっていると傷んでしまうんですけど、健全なものはぐんと甘みが増すので、秋は何らかのかたちで栗を料理に使うことが多いですね。


p34 栗のテリーヌ

――今回、「栗ジャム」「栗のトースト」「栗あんのサンドウィッチ」「栗のテリーヌ」「栗のスープ」「栗のフォカッチャ」と栗のレシピがたくさんあるので、栗を買ったらすごく楽しめますね。


栗は東京にいるときからすごく好きで、ただゆでて食べるのが一番好きでした。何が好きって、ゆでた栗をきれいにむくのが大好きなんです。むくのが嫌いな人も多いですし、半分に切ってスプーンですくって食べるという方も多いのですが、私はとにかくきれいにむけたときの快感が好きなんです。自分で食べるのもはもちろん、人にむいてあげるのも好きで、母とゆで栗を食べると喜んでもらえます。そんな風にゆで栗を食べて育ってきたんですが、熊本県は栗の生産量がすごく多いらしくて、実際とてもたくさんあって、ありすぎると食欲がだんだんとなくなってきて(笑)、自分自身はそんなには食べなくなりました。でも栗は見た目の愛らしさもあり、食べるまでに手間のかかる感じとかを、出すとみなさんすごく喜んでくださるので、お客様がみえたり、料理教室の時や友人の誕生日のときに、なにかと栗を使うことが多いですね。

――亜衣さんは台湾や中国でも料理教室をされていますが、台湾のお料理についてはどのように捉えられていますか?


私はもともとイタリアで料理の勉強をはじめました。海外へ行くとなったときに、自分の興味がなんとなくヨーロッパにあったので、20〜30代はほぼヨーロッパに通って料理を見てくるということが続いていました。それから熊本で娘が生まれて、長い飛行機の旅が難しくなり、それまで年に3〜4回は必ず行っていた旅行にぱたっと行かなくなってしまって。やっぱりどこかへ旅行したいとなったときに、熊本で仲良くしている友人が、中国や台湾のお茶の仕事をしていて、茶葉の買付けに定期的に行っていたので、それに一緒に行ってみない?と誘ってもらってはじめて台湾に行ったんです。それ以来いろいろなご縁があって、年に3〜4回は中国や台湾に通っています。だんだん料理自体、自分自身が食べたい料理も、ヨーロッパよりアジアのものに体が自然とおちていくというのもあります。仕事で、料理教室や料理会をしに行くということももちろん目的ではあるのですが、現地で食べるものが自分自身の料理のインスピレーションへもつながっています。



p48 豆花

――日本で料理教室をされるときと、海外でされるときとは、メニューの組み立てなどは違うものですか?


もちろんそれは変わりますね。最近いろんな国でお料理させていただく機会が増えて、ある程度はどんなものをつくろうか考えては行くんですが。すごく気にかかるのは、現地の方の味の志向ですね。たとえば台湾なら、優しい薄い味付けのものが多いなとか、たっぷりしたスープが必ず食卓の中心にあるな、というように、何回か旅行しているうちに見てきたものを組み合わせていって、「日本の教室だったらこうすると喜んでくれるだろうけど、この国の人だったら違うだろうな」といったことを考えます。あとは、現地で食材をみながら考えていくことが多いですね。

――旅に行かれたあとすぐに、亜衣さんが運営されている泰勝寺での料理教室で、旅で得てきた料理の教室をされていますよね。自分の中に入ったばかりものを、すぐに人に伝えられるようにするためには、どういうことをされてているのでしょうか。


泰勝寺というのは、私が暮らしている家の敷地内にある、元はお寺だった「泰勝寺跡」と呼ばれている場所です。今はお寺としての機能も、建物もなくなっているんですが、昔お寺の待ち合い所だった古い家が残っていて、そこを数年前に改装して食堂をきれいにして、料理教室などができるようにしているんです。私はもともと東京で22くらいの時から30代後半までイタリア料理の教室をしていたので、それもあって足繁くイタリアに通っていたのですが、熊本に来てイタリアに行く機会が減って。でも自分が家でふだん作っているものよりはやっぱり、みなさんがふだん知らない世界のものをお伝えできたらという思いがあって。そんなときにちょうどまた海外に出掛ける機会が増えたんです。海外に行くと、目的はどうあれ3食必ずなんらかの形で食事をするので、そこから得るものがすごく大きいです。日本にいると、仕事のもの以外は料理の写真を撮らないんです。撮ってるひまがあったら食べたいと思っていて。だけど海外での食事は勉強と割り切っているので、写真も撮るし、何が入っているのかも全部書き留めています。特別なことはしていないけれども、食べながら分析のようなことはしていて、これだったら作れそうだな、みんなもきっと作りたいと思うだろうな、というものをまとめて、ひとつの料理教室としてかたちになりそうなものがみえてくると、それをテーマに料理教室をしています。


p76-77

――最近はどんなテーマでされたのですか?


今年の8月にはじめてインドに行って、インドの方のために料理の会をさせていただいたんですけれども、お世話になった方のところに専属料理人の方がいらして、朝昼晩ずっとごはんを作ってくださっていたんです。オーナーの方がほとんど野菜ばかり食べて生活している方で、実は私もふだんほとんど野菜ばかり食べているので、食の趣味がぴったりきて。その方はインド人なのでいわゆるインド料理なんですけれども、庭でとれたものとか、市場で買ってきた野菜を使って作ってくださった料理を朝昼晩と毎日食べていて、思っていた以上にインドの料理は、日本の家庭の台所でもすごく作りやすいし、スパイスの組み合わせや量次第で、とくに刺激的なものでもないし、野菜をたくさん食べられる良い調理法のヒントがあるなと思いました。料理人の方にはお料理を作っていただいただけなんですが、別の料理人さんのお母さまが、ご家庭の食事をつくるところを見せてくださるとおっしゃって。見ていたら、火加減だったり、スパイスを入れるタイミングだったり、やっぱり食べてるだけではわからないことがいっぱいあるんだな、そういったことをやってみたらみなさんにとっても面白いんじゃないかなと思って、9月はインドの野菜料理をテーマに料理教室をさせていただきました。

――イタリア料理を長年やられてきたと思いますが、国が違っても共通することはありますか。

やっぱり私はどこの国に行っても、家庭でみなさんが繰り返し食べているものが結局一番だなと。イタリアに行ったのは大学を出てすぐだったのですが、当時は料理に関するすべてのことに興味があったので、星がつくようなレストランから場末の食堂から、ホームステイ先のお母さんのごはんまでいろいろ体験しました。でも自分が一番おいしい、ここでずっと食べたいと思うのはおうちの方が作ってくださるもので、食べる空間としても、家のごはんがなによりもくつろげるということがわかりました。それはどこの国に行っても共通したことだと思います。ただ、いち旅行者であることは変わりないので、かならずどこかのご家庭で食事をいただけるということではもちろんないのですが。比較的現地のどなたかを訪ねて行くことが多いので、ふらっと旅行に行くよりはそういう機会に恵まれることが多いですね。

20代のはじめの頃に、料理の学校に行ってみたくてイタリアに行ったのですが、当時はインターネットも普及していないので情報がなくて、自分の足で歩いて料理の学校の情報をバールのお兄さんに電話番号と住所を教えてもらいました。エピネーゼというところで暮らしていた頃で、その住所を訪ねて行ったら「ああ、あるけど、半年後ね」と言われて(笑)。それで半年間、語学の勉強などをしながらその街で暮らして、試験があったら電話をくれるということで電話番号を置いていったら、電話がかかってきたんです。どこそこに何時に来てください、と。どんな試験なのかなと思っていたら、その学校はいわゆる職業訓練校で、料理の経験がない人たちでも、レストランや厨房で働いてみようかなと思っている人たちが行く学校なので、入ろうと思えばたぶん誰でも入れるんですけど、人数が10人くらいの募集だったんです。ちょうどひとり外国人枠があるからたぶんいけるわよ、と言われて。実際に試験に受かってその学校に行けるようになりました。その学校に行けたことをすごく良かったなと思っていたんですけど、結果的にいちばん良かったのは、ホームステイすることになった家のおばあちゃまが、いわゆる家庭の素朴なごはんを教えてくださったことなんです。『イタリア料理の本』をつくろうと思ったきっかけも、そのお宅で出していただいた、オリーブオイルとチーズをかけただけのパスタ。さんざん一年間いろんなレストランとか食堂とかを自分なりに歩いて食べてきましたが、「あ、これなんだな」と。自分が知りたかったもの、これからもずっと食べていきたいものってこういう料理なんだな、とその時すごく衝撃を受けました。自分自身の興味の対象というか、軌道を定めていただいたような経験でした。


p54-55

――ちょっと季節は先になるのですが、わたしはこのクリスマスの写真をみて、12月を迎えるのが楽しみになっています。今回、クリスマスの朝食をコース料理のようなかたちで収録していますが、きっかけはなんだったのでしょうか。


クリスマスを明るいうちにお祝いする習慣は、イタリアで暮らしていたときに知ったことです。私は2歳のときにカトリックの洗礼を受けているので、小さなときから教会にも通っていましたし、小学校から大学までカトリックの学校だったので、カトリックの雰囲気とか行事のこととか、なぜそういうことをするのかとかはある程度は知っていたんですけれども、さきほどお話したホテルでクリスマスを過ごしたときに、みんなで朝から準備をして、朝とお昼のあいだくらいの時間からお祝いをはじめて、しっかりそこでお食事をいただいて、というのを体験しました。イタリア現地の人たちはこんなふうに楽しんでいるんだな、というのを思い出して作ってみたんです。ここは普段、私が家族で食事をしている食堂です。うちはお客さまが多いので、この小さな食堂ともうひとつ大きな食堂があるんですが、あえてふだんご飯を食べているところで考えました。この赤いシロップは、さきほども別の料理に散らしていたうちにあるざくろの実なんですが、種が大きくてかたくて、食べてもあんまりおいしいものではないのですが、きれいだし、甘酸っぱいことには変わりないので、あるとき氷砂糖で、梅酒ロックを作るのと同じ方法でシロップを作ってみたら、すごくきれいなピンク色のシロップになったんです。毎年これを炭酸で割ったり発泡のお酒で割ったりして、クリスマスの頃に頂いています。これは朝食というにはかなりしっかりしたコースなのですが、明るいうちにいただくものです。

p57 ピンツィモーニオ

これは冬にとれたての新鮮なオリーブオイルと、意外に冬って新鮮なみずみずしい野菜がとれるのでそれを楽しむもの。

p58-59 レモンのブロード

これはレモンがちょうどおいしい時期なので、レモンの香りを移したスープです。クリスマスの朝と昼というイメージで作りました。

p62 柑橘のモンテビアンコ

――このデザートは、ふだんも作られるのですか?


クリスマスの頃に作ります。これを食べたのはまさにクリスマスの朝ごはん。友人のシェフが作ってくれました。ピエモンテのある北イタリアでは、栗がすごくたくさんとれるので、マロングラッセが昔からたくさん作られているんですね。パン屋さんで売っている焼きメレンゲと、買ってきたマロングラッセと、自分で泡立ててた生クリームを重ねていくだけの簡単な、ケーキとも呼べないようなデザートなんですが、こんなふうに山を大きくつくるとアルプスの山をみたてたような美しさです。これは晩白柚(ばんぺいゆ)という熊本の大きな柑橘がちょうど年末に出回るので、マロングラッセのかわりに組み合わせています。


p148 トースト

――本のいちばん最後、集大成と言えるクライマックスがトーストです。トーストへの愛情をぜひ語ってください。


私は、ずっと同じもの、好きなものを食べ続けるのが好きです。夕飯には絶対納豆が食べたいとか、パスタだったら缶詰の水煮トマトでつくるようなトマトソースのパスタがいいとか。自分だけで食べるならと考えると、朝はトーストになるんですね。パンの厚みだったり焼け具合だとかもですが、いちばん気になるのはパンの温度で、喫茶店とかで頼んでももちろんおいしいんですけど、焼けてできあがったパンがカウンターの上に5秒でも置いてあると「早く運んできて欲しい」とあせるくらい(笑)。とにかく出来た瞬間、オーブンから出した瞬間に食べたいという欲がありまして。私の家の近くにはパンを買えるようなパン屋さんがまったく無くて、いつも友人が東京から送ってくれるパンを冷凍ストックしておいて食べています。そういうこともあって、ちょっと工夫をこらさないと本当の意味でおいしく焼けないので、トーストを焼くことに情熱を傾けて、朝からけっこうがんばっています(笑)。

――バターをすごくたっぷり塗られますよね。


そうですね。パンの全面を覆うくらいないと(笑)。トーストって、焼いてある程度表面の水分が抜けているので、おいしく食べたいと思うと、どんどんバターの量がふえていくんです。バター好きの人ならわかってくださると思いますが。娘にいつも「ママはバターのせすぎで気持ちわるい」と言われてます。けれど、だんだん彼女も少しずつバターをのせて食べるようになってきたので「ママの気持ちがわかってきたでしょ」って言っているところです。

――今回の本は、家庭のふだんの料理とは違うものかもしれませんが、土地の食材にきちんと基づいていることや、亜衣さんが感じた場所の記憶に基づいている、という意味で現実感があります。自分の人生の中にもこういうシーンを取り入れたいなと思うような、素晴らしい本が生まれたな、と思っています。
それでは最後に、亜衣さんからひとことお願いいたします。


長い時間おつきあいいただき、ありがとうございました。
もともと東京育ちで実家もあるのですが、最近は来る機会が減ってしまっているのですが、また何かのかたちでみなさんにお会いしたいと思います。
熊本へも旅行がてら、ぜひ泰勝寺へもいらしてください。



連載もくじ >>

細川亜衣(ほそかわ あい)

1972年生まれ。20代よりイタリアの家庭の台所や食堂の厨房で料理を学び、それぞれの土地の歴史や食材に裏打ちされた、飾り気のない日常の料理に魅了される。現在は住まいのある熊本を拠点に、国内外で料理教室や料理会を行なっている。著書に『イタリア料理の本』『イタリア料理の本 2』『パスタの本』(アノニマ・スタジオ)、『スープ』『野菜』『果実』(リトルモア)など多数。


細川亜衣さんの本





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