アノニマ・スタジオWeb連載TOP > アノニマ・スタジオ トークイベントレポート もくじ > 神保町ブックセンター『家族カレンダー』『サステイナブルに暮らしたい』刊行記念中村暁野さん×服部雄一郎さんトークイベントレポート

神保町ブックセンター『家族カレンダー』『サステイナブルに暮らしたい』刊行記念中村暁野さん×服部雄一郎さんトークイベントレポート


<< トークイベントレポート もくじ アノニマ・スタジオTOPページへ >>

神保町ブックセンター
『家族カレンダー』『サステイナブルに暮らしたい』刊行記念
中村暁野さん×服部雄一郎さん
トークイベントレポート


 11月と12月に刊行された2冊の本、『家族カレンダー』と『サステイナブルに暮らしたい』。それぞれちがうテーマの本のようでいて、通じるものがある2冊です。田舎暮らし、家族、エコライフ…重なるキーワードをもとに、2021年12月11日に神保町ブックセンターで著者、中村暁野さんと服部雄一郎さんが東京/高知とオンラインで繋がり、トークインベントを行いました。その一部をトークイベントレポートとしてご紹介いたします。


自己紹介とそれぞれの本の感想。
キーワードは「不完全」?


中村さん(以下、敬称略)
 11月に『家族カレンダー』という本を出した中村暁野といいます。この本は2016年から自分のサイトで書き続けてきた日記をもとに作った本です。もともと『家族と一年誌』という、ひとつの家族を一年間取材して一冊まるごと一家族を取り上げる、という雑誌を自分の家族と作っていて、その『家族と一年誌』のサイトで日記を書いています。365日毎日書く、と決めて、5年以上、今現在も書き続けています。
 日記を書くことにどんな意味があるのかわからないまま、でもどこかでは大きな意味が絶対にある、という確信のようなものを抱え書いていました。今回本を作ることで、個人的な日記を書き続けること、形にすることの意味をやっと捉えられた気がしています。
 当たり前に家族って変化していくものだと思うんですけれど、この本の中でも幼児だった娘が小学校高学年になったり、存在していなかった息子が生まれたり、東京から田舎に引っ越したり…とわたしたち家族の変化の過程が記された本でもあります。そんな感じですかね。




服部さん(以下、敬称略)
 こんにちは。服部雄一郎といいます。高知県の香美市香北町という所に住んでいます。もともとは首都圏に住んで都内で仕事して…という暮らしをしていたのですけれど、ここ数年は高知で翻訳の仕事をすることが多くなっています。分野としてはエコなライフスタイルを紹介する本、ゼロウェイストとかプラスチックフリーとか、ギフトエコノミーとかそういったテーマの本を翻訳しています。なんでそんな仕事をするようになったかというと、神奈川県の葉山に住んでいた時に町役場に勤めたら、たまたまゴミ担当職員になった。環境意識がまったくなかったのに、ゴミ担当になってゴミ問題を知った。それでこんな人生になっていって、面白いな、という感じです。
 もともと勤め人だったのが今は自営業で、今回妻と一緒に『サステイナブルに暮らしたい』という本を作りました。エシカルでギフトエコノミーな暮らしができたらいいな、と取り組み、ただ現実には難しさもある。うちも子どもが3人いるのもあって、思うようにいかない部分もありつつ、そんな中での暮らしを本にさせてもらいました。今日のトークは僕一人ですけど、本は妻との共著です。今までは翻訳をしていたけど今回は初めて自分の本ということで、大きな一歩をいただいたな、と思っています。




服部
 お互いの本の感想ということで。まず僕から話しますね。『家族カレンダー』の感想、長々と(笑)。こういうトークイベントって有難くて、でもお互いをほめあう馴れ合いみないなのって嫌だなって警戒してしまうタイプなんですけど……すみません、絶賛させてもらいます(笑)。
 中村さんのことはオンラインで記事を読んだり、存在は知っていたけれど、日記は読んではいなくて。この本も、言ってみれば他人の家族の日記。それも300P以上の分厚い本になっている。形式だけ聞いた時は、他人ごとに感じちゃうんじゃないかな?と正直思ったんです。でも読み始めたら1ページ目からどんどん読んじゃって、数ページ読んだらもう自分の家族みたいに思ってしまいました。もちろん家族を大切にする、とかの思いはありつつも、家族という不完全さを「ありのまま」って言葉だとすくいとれないくらい、真摯に、そのままに炙り出されていて、とても共感をおぼえました。いろんな読者の方がいると思うんですけれど、それぞれが共感できるんじゃないかな。



服部
 それで、昨日中村さんが連載されている「Hanakoママweb」で本を紹介する記事を出されていて、その記事がとても良かった。今まで中村さんは音楽活動とかもされてきて、言ってみればメディアに紹介されるような「表」の顔をお持ちの暮らしをされてきた。その中でいろんな葛藤を抱えたりされてきて、そこに書かれていたのが「B面」っていう言葉。「家族カレンダーはB面を綴る本なんです」と紹介されていたのがすごく腑に落ちる感じで。僕がいうまでもないけど、人生ってきれいごとじゃ済まなくてみんな折り合いをつけたり、ひた隠しにしたりして生きてると思うんです。そこに真正面から向き合うって、けっこうな勇気とパワーがいることだと思うし、それをほんとにやり遂げている本なんだと思います。
 実際見ると日記のひとつひとつは、すごく短い日記なんですよね。書かれているのも些細なトラブルだったり困ったことだったり、ちょっとした幸せだったりが連ねられている。だから逆にはっとしました。こんな、見方によっては「どうでもいい」くらいの些細な話が積み重なると、こんなにも実感をともなう大切なものになるのか、という感覚が、自分の生活にも投影されて返ってきた。だから、すごく大切に感じて、感謝しながら読みました。




中村
 ありがとうございます!それじゃあわたしも、服部さんの本の感想を同じ熱量でお伝えしたいと思います(笑)。
 もともとわたしは服部さんが翻訳されてきた本も読んでいて、サイトも見させてもらっていました。それで、今回近い時期に本を出版することになって、編集の方や服部さんご本人にも「服部家と中村家は似てるところがたくさんあると思います」と言っていただいた時、もう恐れ多いわ~~~!という感じだったんです。でも実際に『サステイナブルに暮らしたい』を読ませていただいて、ちょっと本当に自分の家族と重なって見えた。というのは、この本はサステイナブルな暮らしをしていくための具体的な方法が書かれていつつ、そんな暮らしを目指しながらも完璧にはいかない、リアルな暮らしの姿も記されていて。予想外にも読みながら何度も笑ってしまったったんです。いわゆるエコライフ、みたいな本や情報を見る時に感じる『こんな暮らし、とてもとてもできないわ~』という劣等感というか、罪悪感というか、そういったものを感じずに読める本だったんです。
 


中村
 わたし自身もエシカルをテーマに連載をさせてもらったり、実際にこの本に書かれているようなことで取り組んでいることもたくさんあって、でも時々すごく投げやりな気持ちになってしまうことがあるんですね。「こんなことやっていて意味あるのかな」とか、ただ単に自分の欲に負けることもありますし。でも『サステイナブルに暮らしたい』では「完璧」ではない姿も描いてくれていることで、読んだ人がこういったエコライフを志し発信している人たち誰しも「完璧」じゃないんだな、自分と同じなんだな、と思える気がして。だから挫けそうになった時は、これからいつでもこの本を開きたいと思いました。あと、わたしは本の一番最後に書かれていたことが一番ズシンと来て。「環境問題はもう待ったなしの状況で、でもそんな中でも今日はまだ空は青くて、幸せを感じて…そんないずれは環境破壊によって失われてしまうかもしれないささやかな瞬間に幸せを感じることを大切にしたい」というようなことを書かれていたじゃないですか。前向きさと、切実な危機感と、どちらもわたしたちは常に抱えて生きていかなきゃいけない、そんな時代なのだと思うし、この本はその両方を強く感じられる本だと思いました。

服部
 はい。今暁野さんが言っていたようにこの2冊、深いところでは通じる本だなって思っていて。キーワードは「不完全」(笑)?不完全な現状を受け入れると先に進めるってあると思うんです。世の中に成功例が溢れてて、こうしなきゃいけないという情報が日々入ってきて、そうなりきれない自分を責めたりっていうようなことはもちろんあるんです。でも完成形を目指しがちな現代で、最後まで完成に至らないかもしれないけど、そこに至るまでをどう受けいれて進んでいけるのか。
 僕の本のテーマはサステイナビリティ、暁野さんの本は家族というテーマが描かれているけど、そこに浮かび上がっているものはとても似た色合いの気がします。






エシカルへの意識。
ちがいこそ、意味がある


中村
 環境問題に意識を向けるようになったきっかけは、20歳くらいの頃、1日で食べたのはチョコだけみたいな暮らしをしていたら体調がずっと悪くて。それで生活のなかで食べることを見直したのがきっかけです。食って環境問題にすごく繋がっていることじゃないですか。けれど、大きく意識が変わったのは東日本大震災があったことですね。社会の中に生きていることを痛感したし、その中で自分がしてきたこと、してこなかったことに猛烈な後悔を感じて変わりたいと思いました。で、それが葛藤のはじまりでもありました。結婚して、出産して、すぐ東日本大震災が起きて、わたしは「今変わらなきゃもうダメだ!」と思い詰める中、そんな危機感を持っていない夫と溝と感じて孤独感を高めていて……。ありがちだと思うのですが夫婦の危機でした。でもそんな時間は数年間続いたのが今の自分に繋がる大きな経験だったと思います。

服部
 本でも書かれてましたよね。夫である「ひょーさん」に、「もう無理だ」と伝えたら寝耳に水って感じだったって。

中村
 夫婦でよくある受け止め方のズレですね。

服部
 家族もいて、家もあって、客観的に見たら何も不足ないはずなのに、苦しくなってしまう自分、ということに向き合われたことが大きなきっかけだったんだな、と読んでいて思ったんです。
 僕自身は東日本大震災時、子供を連れてアメリカ留学中でした。だから当時日本にいた方々とは感じたことがまたちがうとは思いますが、あの時日本に帰れなくなるかも、という感覚を初めて持ちましたね。アメリカは移民の多い国だし、自分たちも移民の方に囲まれて暮らしていたけど、自分達も、もしかしたらこのまま日本に帰れなくなってしまうのかもしれない、という人生観のゆらぎを初めて体験しました。でもそのことは、それまで当たり前に思っていたのではない、ちがう未来を想像しようとする伏線になったのかも、とも今では思っています。




中村
 当時は同じ基準で物事を見れる夫婦が心から羨ましかったんだけれど、今はそうではなかったことがとても良かったと思えるようになりました。自分の中に「理想の社会」「理想の自分」が明確にあって、そうじゃない夫を認められないような気持ちだったけれど、描く理想通りにいれない部分って、実は自分の中にもたくさんあるんですよね。子どもに食べさせたくない!と思ってるジャンクフードを夜中に自分が貪り食べたりするような。でもそんな自分を夫にも子どもにも誰にも知られたくなくて、ゴミ箱の底の底に空袋を隠したりするような自分。夫は良くも悪くも偽りのないタイプなので、そんなわたしの横で堂々とエナジードリンクをプシュッ、ごくごく~~!みたいな。「はあ?!」とかわたしはなるわけなんですけど(笑)。
 自分の中で、さまざまな場面で面と裏があって、そんな自分を認めたくない。そういう思いがありました。でも不思議と自分とちがう夫を認められるようになったら、「理想」とはちがう自分のことも認められるようになった気がします。子どもに対しても、「理想」の部分だけで接しようとして、自分の描く正しさをおしつけがちだったと思う数年の間で、真逆な人が父としていることが子どもの逃げ道になっていたような気もしています。

服部
 夫婦がちがうことが逆によかった、というの、すごく共感します。 環境問題界隈でよくあるのは、妻のほうは意識がぐんぐん高まっているのだけど夫はなかなかなびかなくて、夫婦の温度差があるケース。でもオーガニックとか環境意識とかに限らず、ちがいこそが何か意味がある、と視点が変わると、変化がある気がするんですよね。

中村
 震災後、社会をよくしたいと思っても何もできない自分に無力感がありました。でも、その時に家族と向き合うって社会活動なのかもって思ったんですね。わかりあえないと思った夫がそこにいてくれたからこそ、家族って最小単位の社会で、わからないもの同士が築いていける何かを見つけたいと思えたんだと思います。





服部
 家族は社会のミクロの構図ですよね。ちがう人同士が折り合いをつける道を見つけるということの延長線に、社会の平和も見えてくる。環境問題も同じだと思います。環境問題に意識がある人は、思わずみんなやってくれないとこんなんじゃうまくいかない、と求めがちになってしまう。でも現実に環境問題にスッと難なく取り組めるのは一部の人だけだと思います。うまくいく人だけが取り組んで変わっても、社会は変わらない。うまくいかないだろう要素を抱えた多数の人がアクションを起こし参画していけるようにならないと社会は変わらないんですよね。こうありたい、という思う気持ちは真実で、でもままならない現実がある時に何ができるのか。
 環境問題に向き合う時、今自分ができることをやる、それも楽しんでやれることをやる、ということにフォーカスするほうが効果的なんじゃないかなと思うんです。子育てにも通じるんじゃなかいかな。子育ても今ここで起こっていること取り組んでいることに対しての長期的な効果が見えにくいし、そもそもそんな長期的効果があるかどうか、と考えていたら、やっていられなくなる。それよりも、楽しめることをやる。だから続けられる。そのほうが結果として「効果」にも繋がっていくんじゃないかなって思います。




ひとりひとりの物語。
今、自分が出来ること。


質問
お二人とも初の著作ということで、本づくりの過程で発見したこと楽しかったことを教えてください。

中村
 わたしはすごく個人的な日記の本で、服部さんの本のような具体的な情報がなんにもない本。本の「あとがき」にも書いたんですけど、今、小さい存在がすごくないがしろにされているなって社会の中で感じます。結果として何十年後かにそんな社会に対して何もできなかったなって思いながら死ぬのかもしれなくても、今こう思ってるってことを強く残しておかなくちゃいけないって気持ちがすごくあって。戦時中に書かれた無名の女性たちの日記を読んだりするとすごく勇気づけられるんです。歴史には残っていないひとりひとりが、納得しようもない時代の中で、一生懸命生きていた。確かにひとりひとりの人がいたっていう事実に励まされる。そういう意思をひとりひとりが持って生きていくことが、もしかしたら大きな何かに繋がれるんじゃないかって思いながらこの本をつくっていました。だからわたしは、まだ出会ってもいないそんな「私たち」にこの本が届いたらいいなって思うし、ひとりひとりの小さな日々、ひとりひとりの物語が大切にされる社会になってほしいって思って作りました。






服部
 今回タイトルが『サステイナブルに暮らしたい』って願望系なんです。
 今まで僕が翻訳してきた人たちは1年間のゴミが瓶ひとつとかプラスチック完全フリーとか、ほんとうにすごい人たちですけど、自分自身ははそういう「すごい人」じゃない、と思っているんです。もちろんサステイナブルな暮らしの価値を認めて、そこに向かって進んでいるんだけど、結果としてのすごい現状が今があるわけじゃない。そんな中で本を作るほどの目新しいものってあるかな?と最初は思っていたんです。何がつくれるかなって結構考えて、それで、この願望系のタイトルの本です。サステイナブルな暮らし方、と指南書的なことは言うつもりはなくて。
 正しいことって、そもそもすぐ変わります。5年前はプラスチックのことだってこんなに言われていなかったし、ゴミ問題を知っていたのに、ここまでの危機意識は自分もなかった。きっと5年後10年後、今言われてもいないことが当たり前でかもしれない。今の暮らしは、正解の暮らしの近似値ですらないと思っています。
 そんな中で何が書けるかといったら、自分の想いだけかなって。サステイナブルに暮らしたい、と思っているのは真実。まぎれもない事実で、そして多くの人も思っていることであるだろうと思いました。そんな思いがある上で、今何ができるかっていうことを書けたらいいなって作りました。







 以上、トークイベントの一部をご紹介しました。


イベント主催/神保町ブックセンター
実施/2021年12月11日
登壇/服部雄一郎・中村暁野
記事/中村暁野 アノニマ・スタジオ



アノニマ・スタジオ トークイベントレポート もくじ >>



アノニマ・スタジオWeb連載TOP > アノニマ・スタジオ トークイベントレポート もくじ > 神保町ブックセンター『家族カレンダー』『サステイナブルに暮らしたい』刊行記念中村暁野さん×服部雄一郎さんトークイベントレポート