家族4人で1年に出すごみの量がわずかガラス瓶1本分(=1ℓ)という驚異の「ごみゼロ生活」を紹介する『ゼロ・ウェイスト・ホーム』。生活のシーンごとに実践的な取り組みが紹介されていて、興味のあるところや身近なところから少しずつ始めることができます。「日本でもできるの?」という疑問にお答えすべく、翻訳を手掛けた服部雄一郎氏による実践リポートをお届けしていきます!

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第5回 台所のゼロ・ウェイスト①
~生ごみコンポスト編~


◆人生を変えた、生ごみコンポストとの出会い

今から10年以上前。30歳を目前にして、地元の役場に転職した僕は、「環境課」という、ごみの担当課に配属されました。何の必然があったわけでもありません。ごみと言えば、ごみ収集車が目の前を走り去るイメージしかなかった自分。まさかこれが運命を変える配属先になるとは考えてもいませんでした。

働き始めてすぐに、職場の窓口に謎めいたパンフレットが置かれていることに気づきました。題して、「生ごみコンポスター補助制度」。わが環境課の担当事業です(※同様の補助制度は大多数の自治体にあります)。読んでみると、

  • 天然の微生物の力で生ごみを分解
  • 生ごみの99パーセントは水と二酸化炭素に分解され、ほぼ完全に消えてしまいます
  • 維持費はゼロ
  • 庭に設置して、生ごみと土を交互に入れていくだけ
  • あとに残った土は良質な堆肥として使えます

などなど、誇大広告のような宣伝文句が並び、女性が満面の笑みで巨大容器のフタを開けている前時代的な写真が載っています。

「本当かな~? でも、ちょっとおもしろいかも。やるだけやってみても、損はないかな?」と思ったことが、すべての始まりでした。さっそく借りてきたコンポスターを庭に設置し、おそるおそる生ごみを入れてみると……、暮らしが文字通り“一変”したのです。


◆生ごみフリーで快適なキッチン

「生ごみ処理」って、言葉がよくない気がします。まるで生ごみを「いじくる」ような響き。見たくもない生ごみをわざわざ取り出して、いかにも腐りそうだし、においそうだし、虫が湧きそうだし、というネガティブなイメージを抱く人が多いのも無理はありません。

たしかに多少のコツはあるのですが、実際に始めてみれば、むしろその清潔さや安心感に気づかされます。どんなに汚い生ごみが出ても、たとえば、腐りやすい魚のあらやカビが生えたようなものでも、とにかくコンポストに投げ込んで土をかけてしまえば、(コンポストの方式にもよりますが)基本的にはそれで解決。あとは何も心配することはありません。宣伝文句のとおり、微生物が数週間のうちにすべて分解して、“清潔な”土に変えてくれます。土をかければ、においはまったく気になりません。

この安心感は相当なものです。以前はわが家も、生ごみを毎晩ビニール袋に入れて、ごみ箱にドサッと投げ入れていました。でも、ごみ箱ににおいが染みつくせいでしょうか、特に夏場は、ビニール袋を二重にしてもにおいが漂う気がして、恒常的な不快感があったことを思い出します。視覚的にも、生ごみ入りのビニール袋というのはいかにも生々しく、それが次の収集日まで不気味な爆弾のようにごみ箱の中に鎮座しているという重苦しさ。それを収集日の朝に決然と持ち上げ、フワッと立ち上るにおいをなるべく吸い込まないようにして口をしばり、ずっしりと重い袋を、よりによってご近所中の腐臭が集まる集積所まで運んで行き、汚れたネットを指先でつまみ上げ、その中に袋を置いて戻ってこなければならないという、いざ書き出してみるとまるで障害物競走のようですが、この不快な営みのすべてが、コンポストを使い始めたことできれいさっぱり消え去ってしまいました。

実のところ、コンポストを始めてからというもの、生ごみが“なくなって”しまったような感覚さえあります。なぜなら、生ごみって、ごみ箱に捨てるから「ごみになる」のです。コンポストに入れる場合は、料理をしながら、野菜くずや魚のあらをそのままボウルなどに取り分けていくのですが、このようにフレッシュな状態の生ごみは、“ただの食材”。まったく不潔感がありません。それらの“食材”をそのまま庭などに置いたコンポストに投げ込んで、残ったボウルをきれいに洗って拭いてしまえば、台所には生ごみの痕跡すら残りません。ごみ箱のにおいや三角コーナーのぬめりからも解放され、とても清潔で安心なキッチンが実現します。もちろん、ごみ出しの手間も一切なし。「出し忘れ」の恐怖も過去のものとなり、まさに「言うことなし」の生ごみ処理です。


土に戻すタイプなら、コーヒーフィルターもそのまま入れても問題なし。

「コンポストは庭がないと無理!」と思っている方も多いようですが、庭がなくても、マンションのベランダで手軽に使える「ベランダdeキエーロ」のようなタイプもあります。生ごみフリーの清潔キッチンを実現してくれるコンポスト。少しでも「おもしろそう!」と思われた方は、ぜひチャレンジしてみてください。きっと毎日の生活が一変するはずです。(各種コンポストの比較表を『ゼロ・ウェイスト・ホーム』p.114-115に掲載しています。)

コンポスト方式比較表を参考に、ご自身のニーズに合うコンポストを選んでみてください。

◆もちろん失敗談も……

どんなに「快適」「手軽」とは言え、やはりコンポストにはある程度のコツもあります。僕も、加減がつかめるまでは、いきなりウジ虫が湧いてしまったり……といった失敗も経験しました(※虫が発生しないタイプもあるので、絶対に嫌な人はそれらのタイプを選べば大丈夫です)。

自然から離れた現代人にとって、ウジ虫の発生は衝撃の体験です。僕も最初に目撃したときは、目の前が真っ暗になり、職場に着いてもしばらく動悸が収まらず、「具合でも悪いの?」と聞かれたほどでした。でも、もし「どうしてもムリッ!!」となってしまったら、すべて土をかけて数週間放っておけばOK。あとは自然の力が解決してくれます。具体的な話、生ごみ(=ウジ虫のエサとなるもの)を入れるのをやめれば、ウジ虫はそれ以上増えることはないし、幼虫の大部分は成虫(=アメリカミズアブ)になる前に死んでしまうらしく(だからたくさん卵を産むのだとか)、間違っても「ハエやアブがコンポストの周りに大量発生してブンブン飛び回る」などというヒッチコック的な事態にはならないので、その辺は安心です。

そもそもウジ虫って(しつこくてすみません)、実は単なる不快害虫(=見た目が気味悪いだけ)で、実質的な害はなく、むしろ生ごみをせっせと食べて分解してくれるということで、益虫とみなす向きさえあるのです。世界にはウジ虫を積極的に利用したコンポストもあるくらいで、現に妻の実家のお母さんも、コンポスト生活がすっかり軌道に乗ってきたある日、こんな仰天発言で僕を感服させてくれました。「今年の夏は暑すぎて、コンポストの中のウジ虫がみんな死んじゃったから、生ごみを食べてくれなくて、なかなか分解が進まなくて困るわ……」(ここまで来れば、もはや“恐いものなし”です)。生理的な嫌悪感というものはなかなか変えられるものではないかもしれませんが、つくづく、物は考え方次第。自然の摂理に逆らわないあり方について、深く考えさせられた一件でした。(※くれぐれも、虫がどうしても嫌な方は、「コンポスト方式比較表」で、虫が発生しないタイプを選べば大丈夫です!)

わが家愛用のバケツ式コンポスト(EMバケツ)は、虫の心配はなく、安心です。専用のコック付き容器でなくても、シンプルな密閉バケツで十分。生ごみをなるべくフレッシュなうちに投入して、EMボカシまたは普通のぬかをまぶし、いっぱいになったら土に埋めます。すばらしい肥料になります。



◆究極の循環!? ニワトリ・コンポスト

仕事柄、わが家ではこれまでに主要なコンポストはほとんど全種類試してきました。それぞれ長所と短所がある中で、わが家のニーズにいちばん合ったEMバケツを長く愛用してきましたが(※コンポストは各自のライフスタイルとニーズに合致するものを選ぶことが重要なので、EMバケツがみなさんにおすすめという意味ではありません)、昨秋、4羽の鶏を飼い始めたことで、わが家の生ごみ処理は再び一変しました。わざわざEMバケツやコンポストを使わずとも、半分以上の生ごみを、鶏が食べてくれるようになったのです。

子どもの遊び相手にも理想的な鶏たち。なつくと逃げません。

これは驚くべき変化でした。鶏は、生ごみを食べ、毎日糞をします。その糞、つまり鶏糞は、人がわざわざお金を出して買うほどの良質な堆肥となり、しかも生みたて卵といううれしいオマケつき。さらに、頼みもしないのに朝から晩までせっせと草をついばみ、地面を掘り起こして虫を探し、気づけば一帯の雑草が刈られ、土はフカフカに耕されています。AIもびっくり、ほとんど“全自動草刈機兼耕運機”と呼びたくなるほど見事な働きぶりです。

自然って、すごい。そう感嘆せずにはいられませんでした。無駄がなく、すべてがつながり、循環し、生かされている。これぞ、ゼロ・ウェイスト。

これまでは、生ごみも「なるべく少ないことが望ましい」と思い込んでいました。食べ残しはなくす。調理の無駄は省き、できるだけごみを出さない。買い物も必要な分だけにとどめ、生ごみを最小限に抑えるあり方こそがゼロ・ウェイストだと信じていました。その考えは決して間違いではなく、これからも心がけていきたい大切な部分ですが、同時に、この“ニワトリ・コンポスト”を始めてからというもの、自分にはもうひとつ別の「ゼロ・ウェイスト」の形も見えてきました。だって、鶏のエサが足りなくて、もっと生ごみが欲しいのです。毎日「今日はこれしか生ごみ出なかった……」と嘆息し、「今日は魚のアラが出たから、鶏がよろこぶぞ!」と湧きたつ、そんな日々です。ご近所の農家さんの畑で不要な大根葉が大量にあると聞けば、ウキウキといただいてきて、鶏にやります。精米所に行ったら、ぬかをもらってきて、鶏にやる生ごみにせっせとまぶします。「生ごみがうれしい」——、これは今までになかった感覚でした。ご近所に住む“鶏の先輩”の言葉は、さらにその先を行きます。曰く、「あたたかくなってきたら、発酵した生ごみにウジ虫がたくさん湧いたりする。それが鶏にとってこれ以上ないご馳走になるんですよ」。

先ほど、「生ごみは捨てるからごみになるのだ」と書きましたが、ここでは別の意味で、「行き場のある生ごみは、ごみではないのだ」と感じます。鶏の文脈では、生ごみは「ごみ」どころか、「貴重」な存在なのです。そして、この「ごみを生かす」「ごみがごみではない」構図は、つい数十年前までは、もっと普通に生活の中に存在していたことに思い当たります。祖父母世代では、畑のある人はみな生ごみを畑に埋めていたし、し尿は良質な堆肥の素として、業者が買い取って回収していたらしい。そんな話を耳にするにつれ、現代とはかくも無機的な地点に進んできてしまっているのだと痛感します。生ごみは、“処理すべき存在”ではないのです。「減らす」ばかりではない、「存在するそれを生かす」ものとしての生ごみ。今日も、山のふもとで思いを新たにしています。

さて、「台所のゼロ・ウェイスト」のはずが、生ごみコンポスト一色で語り倒してしまいました。次回は、より広く、いかに台所をシンプルに無駄なく、たのしく変えていけるか、考えてみたいと思います。


*連載第2回で世界に広がるゼロ・ウェイスト実践者たちのブログをご紹介しましたが、その後日本でも実践されている方々がいらっしゃいましたので、ご紹介いたします!
>>第2回 世界に広がる“ゼロ・ウェイストの暮らし”


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服部雄一郎(はっとり・ゆういちろう)

1976年生まれ。東京大学総合文化研究科修士課程修了(翻訳論)。葉山町役場のごみ担当職員としてゼロ・ウェイスト政策に携わり、UCバークレー公共政策大学院に留学。廃棄物NGOのスタッフとして南インドに滞在する。2014年高知に移住し、食まわりの活動「ロータスグラノーラ」主宰。自身の暮らしにもゼロ・ウェイストを取り入れ、その模様をWEB連載「翻訳者服部雄一郎のゼロ・ウェイストへの道」(アノニマ・スタジオ公式サイト)や、ブログ「サステイナブルに暮らしたい」(sustainably.jp)で発信する。最新の訳書に『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)。


ゼロ・ウェイスト・ホーム
ーごみを出さないシンプルな暮らし―

著:ベア・ジョンソン
訳:服部雄一郎

本体価格1700円(税別)

家族4 人が1 年間に出すごみの量がガラス瓶1 本分(= 1 リットル)という、驚異の「ゼロ・ウェイスト(ごみを出さない)」生活を続けている著者。そのクリエイティブな工夫を紹介する、実践ガイドの日本語版です。「ごみの分別先進国」と言われる日本でもシンプルな生活や生き方が話題となっている昨今、環境問題やリサイクルに意識的な方のみならず、大きな注目を集めているテーマです。モノを減らせばごみも減り、環境的・経済的にも大きなメリットが生まれる。本当の豊かさとは?快適な生き方とは?「断捨離」「ミニマリズム」のさらに一歩先を行く、持続可能でシンプルな暮らし方の提案のみならず、人生で大切なことや見つめ直すべきことに気づかせてくれる一冊。先進的で洗練された暮らしぶりも必見です。