家族4人で1年に出すごみの量がわずかガラス瓶1本分(=1ℓ)という驚異の「ごみゼロ生活」を紹介する『ゼロ・ウェイスト・ホーム』。生活のシーンごとに実践的な取り組みが紹介されていて、興味のあるところや身近なところから少しずつ始めることができます。「日本でもできるの?」という疑問にお答えすべく、翻訳を手掛けた服部雄一郎氏による実践リポートをお届けしていきます!
特別編 “ゼロ・ウェイスト・ホーム”のその後
「ゼロ・ウェイスト・ホームへの道」の連載から2年。このたび、新しい訳書『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)を刊行しました。『ゼロ・ウェイスト・ホーム』の姉妹本とも言える、「プラスチックフリー」という新しいライフスタイルについて書かれた、とても刺激的な本です。これを機に、連載後の2年間で、わが家のゼロ・ウェイスト・ライフにどんな変化があったのか、これからどういう地点を目指していきたいのか、振り返ってみたいと思います。
1. まわりのみんなが慣れてきた
いちばん大きな変化は、実はこれ。いちばん“ありがたい”変化でもあります。対外的に「ゼロ・ウェイストの人」(または「ごみの人」……)と認識してもらえるようになり、「ちょっと変わった人なんでしょ?」「ごみを減らしているみたいね」と自然に思ってもらえるようになりました。「変わっているんだな」と周囲に受け止めていただけるというのは、本当に得なことです! よりマイペースに、自然に、スタイルを貫けるようになってきました。
買い物先のお店でも、「いつも袋や容器を持参する人」とスムーズに認識してもらえることが増え、中には、こちらが何も言わないうちから、「レシートは不要ですか?」と聞いてくださるお店も出てきて、シンプルに感動しています(ただ、仕事の買い物でレシートが必要な場合も多く、せっかくの配慮に「必要なのでください」と返さなければならないことが多いのは痛恨です)。
家の外側ばかりでなく、内側でも、子どもたちが「ゼロ・ウェイストのわが家」に飛躍的に慣れてくれました。「うちはごみをなるべく出さないようにしているんでしょ?」「お父さんとお母さんはプラスチックが嫌いなんでしょ?」と、よく頭にインプットしてくれたようで、親としては「あまり親の趣味で窮屈な思いをさせないように……」なんて思ったりもするのですが、そんな心配をよそに、わりにあっけらかんと「みんなと違ってもいいよ~」「ごみになるから、別にいらない」などと明るい返事を返してくれるようになりました(とは言え、時折よそからいただく袋菓子やペットボトル飲料はここぞとばかりに大喜びで消費しています)。「せっかくだから」と、一歩進んで、子ども向けに書かれたわかりやすいエコの本なども一緒に読むようになり、親子の時間も、ぐっと世界が深まった気がします。
日本人ですから、やはり、あまり急進的に「リフューズ」(=断る/受け取らない)するのは気が引け、あくまで「無理のない範囲」「居心地の悪い思いをしない範囲」にとどめています。ごみを徹底的に排除しようとはせず、友人知人からの好意の贈り物は、「ごみ云々」は考えずに、すべてうれしく受け取っています。そんな中でも、チラホラと、“自然にゼロ・ウェイスト”な贈り物を受け取る頻度が増えてきました。気泡緩衝材を使わず、古新聞や段ボールでおしゃれに梱包した小包。裏紙に走り書きした手紙。どれも創意と遊び心あふれるものばかり。贈り主のしたり顔が目に浮かぶような、そんな小包や手紙が届くと、ゼロ・ウェイストを通じてより深くその人とつながれたようで、幸せな気持ちになります。
2.いくつかのアクション(もちろん失敗も……)
この2年間の「目に見える変化」と言えば、小さく営むカフェで、ゼロ・ウェイスト・アカデミーによる「ゼロ・ウェイスト認証」を取得したこと。そして、月に一度程度の不定期ではありますが、パッケージフリーをテーマとする「量り売りおやつ店」をスタートしたこと。
中でも「量り売りおやつ店」は、お客様にマイ容器を持参していただき、すべてのおやつをパッケージフリーでお持ち帰りいただけるようにするという試み。これが驚くほど順調です。みなさん思い思いに、お弁当箱、お重、タッパーウェア、みつろうラップ、蒸籠など、実に様々な「マイ容器」を持ってきてくださり、たのしい会話がはじまります。もちろん、すべてのお客様が容器を持参するわけではありません。そこは、「パッケージフリーだけの店」(=環境問題に意識的な人だけが来る店)に限定したくはなく、むしろ、「普通のおやつ屋である+パッケージフリーに対応している」にしたいので、マイ容器がない方向けには、こちらで袋や箱を用意しておきます。その場合も、ささやかなこだわりとして、新品の使い捨ての袋や箱は絶対に使わず、すべてリユースの袋や箱(製菓材料が入っていた清潔な袋や紙箱など)を使うようにしていますが、クレームもトラブルもゼロ。もしかしたら、内心「ちょっと嫌だな……」と思われた方もいるかもしれませんが、それも含めて「新しい体験」としていただければよいかな、ということで良しとしています(もちろん、できることならリピートしたいと思っていただきたいので、できるだけ心地よく買い物していただけるよう、心がけています)。
さて、すべてが目論見通りというわけではありません。保育園の保護者会の役員を務めた際は、「ゼロ・ウェイストに向かって、何かひとつでもできることを!」と意気込み、不用品交換コーナーの設置を提案。「要らなくなった子供用品を交換できて、便利ですよ~」「デメリットは何もありませんので!」「いやな人は使わなければいいだけですから!」と、若干強引に話し合いを進め、さっさと実現に漕ぎつけました。が、いざスタートしてみると、予想以上に利用者が少なく……。わが家が得意満面に出品した「まだきれいなおまる」も、もらい手が現れないまま期限切れに。最初は役員のみなさんがサクラ的に出品してくださっていましたが、ひとつ減り、ふたつ減り、最後は閑散とした掲示板が寂しく展示される光景が……。理由はいろいろ思い浮かびます。小さなコミュニティの中で、不用品交換になじみがない、あるいは敬遠するような向きもあったかもしれませんし、園が小規模で、対象者の絶対数が足りなかった可能性もあります。個人情報の関係で、いちいち職員室に声をかけないと登録も連絡もできないなど、使い勝手にも課題はありました。もっと使い勝手のよいシステムに改善できる余地は多分にあったと思うのですが、なかなかスムーズにはいかず、役員の交代とともに、コーナーは撤去されてしまいました。
つくづく、「ニーズのないところでひとり相撲してもダメなのだな」と思い知った次第ですが、とりあえずは「何もない状態」に戻っただけのことですから、必ずしも後ろ向きに捉える必要はないはずです(わざわざ掲示板を準備していただいた先生方には余計な手間をかけてしまって申し訳なかったですが……)。何より、前向きな変化には、こうした失敗のひとつやふたつはつきものだと思うので、「ま、いい勉強になったな」と思うようにしています。実際、「ちょっと面目なかったな」という以外には、実質的な害は何もなかったのですから。
3.新たなチャレンジ
そんなわが家に新たに加わったテーマが「プラスチックフリー」。ゼロ・ウェイストとプラスチックフリーは重なり合う部分も多く、以前からプラスチックごみの削減は大きな関心事でした。しかし、連載でも触れたとおり、プラスチックごみの削減は、ゼロ・ウェイストの中でもいちばんむずかしい部分。量り売りの少ない日本では、なかなか減らしにくいだけに、ついつい妥協しがちになります。
それが今回、『プラスチック・フリー生活』の翻訳作業を通して、プラスチック問題に対する理解が深まり、プラスチックの害や危険性についてもより意識的になれたことで、心機一転、夫婦そろって「やっぱりもっと頑張らなければ」という気持ちになれました。
もともと「プラスチックはできるだけ避けたい」と思っていたわが家ですが、それでも“やむを得ず”持ち続けていたプラスチック製品はいろいろあります。完全なプラスチックフリーが実現できれば話はシンプルですが、そうスムーズにはいかない中、わが家がまず主眼を置いたのは、「もっとも危険」とされるポリ塩化ビニル(PVC)を排除すること。そのためにも、とにかくすべてのプラスチック製品の材質(種類)をチェックするよう心掛けるようにしました。いちばんショックだったのは、子どもが使う消しゴムがほぼすべてポリ塩化ビニルだったこと。慌ててリサーチし、「プラなし生活」という日本語サイトのおすすめ情報などを参考に、天然ゴム製の消しゴムを買い求めました。また、「問題ない」と思い込んでいたガラス瓶の蓋の内側にも「エポキシ樹脂」という内分泌かく乱作用が指摘されるプラスチックがコーティングされていることを知り、完全にプラスチックフリーのドイツの「ウェック社」のキャニスターを本格的に使い始めました。ほかにも、なかなか買う決心がつかずにいた万年筆をついに購入したり(アメリカのゼロ・ウェイスト・ブログ「Litterless」が推薦していたLamyの手頃な金属製のものにしました)、完全天然素材のトイレブラシやデンタルフロスを買ったり(おすすめ情報は『プラスチック・フリー生活』にも掲載しています)。細かい部分で棚上げになっていたゼロ・ウェイストの課題にもまとめて向き合うことができたのは大きな前進でした。
新しい変化には毎回ワクワクさせられます。環境危機が深刻さを増す現代ではありますが、だからこそ、よりエコな、よりサステイナブルな、今までになかったような製品やメソッドが次々に登場し、私たちの暮らしをより良い方向へと変える手助けをしてくれます。それらと出会い、暮らしと意識を次の段階に進めること。たのしみつつ、バランスを探りつつ。「ゼロ・ウェイスト×プラスチックフリー」を志すわが家の旅は、これからもきっと、思い描く以上に広い世界へと、私たち家族を連れて行ってくれるはずです。20年後、30年後の自分たちは、一体どんなエコライフを営むことができているのか。そんなたのしい未来を夢見つつ、引き続き、前進を続けます。
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服部雄一郎(はっとり・ゆういちろう)
1976年生まれ。東京大学総合文化研究科修士課程修了(翻訳論)。葉山町役場のごみ担当職員としてゼロ・ウェイスト政策に携わり、UCバークレー公共政策大学院に留学。廃棄物NGOのスタッフとして南インドに滞在する。2014年高知に移住し、食まわりの活動「ロータスグラノーラ」主宰。自身の暮らしにもゼロ・ウェイストを取り入れ、その模様をWEB連載「翻訳者服部雄一郎のゼロ・ウェイストへの道」(アノニマ・スタジオ公式サイト)や、ブログ「サステイナブルに暮らしたい」(sustainably.jp)で発信する。最新の訳書に『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)。
ゼロ・ウェイスト・ホーム
ーごみを出さないシンプルな暮らし―
著:ベア・ジョンソン訳:服部雄一郎
本体価格1700円(税別)
家族4 人が1 年間に出すごみの量がガラス瓶1 本分(= 1 リットル)という、驚異の「ゼロ・ウェイスト(ごみを出さない)」生活を続けている著者。そのクリエイティブな工夫を紹介する、実践ガイドの日本語版です。「ごみの分別先進国」と言われる日本でもシンプルな生活や生き方が話題となっている昨今、環境問題やリサイクルに意識的な方のみならず、大きな注目を集めているテーマです。モノを減らせばごみも減り、環境的・経済的にも大きなメリットが生まれる。本当の豊かさとは?快適な生き方とは?「断捨離」「ミニマリズム」のさらに一歩先を行く、持続可能でシンプルな暮らし方の提案のみならず、人生で大切なことや見つめ直すべきことに気づかせてくれる一冊。先進的で洗練された暮らしぶりも必見です。
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