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居合わせた、きのこおじさん(78歳)の話を聞く。真っ白な髪に力強い視線。指揮者の小澤征爾さんを彷彿とさせる。
tabihitotsu


きのこおじさん(78歳)のはなし

毎年、この季節の山へ入ってきのこを採るのが楽しみである。
何箇所か目星のついている場所があって、そこを、次々とまわる感じだね。
山へは必ず一人で入る。きのこの場所は誰にも教えんよ、息子なんか、父さん、もう、いつ、お迎えがくるものか
分からないから、いい加減、きのこの場所を教えてくれたらどうか?とせがまれるけど、いやぁ、教えんね、
山へは一人で入る。そういうもんだ。
今年は1週間、遅かった。大きな舞茸の株を(両手を広げて大きさを示してくれる)4つ見たけれど、どれも
腐っていて駄目だった。収穫はゼロだった。雑キノコが生えているのを辺りで見たら、まだ、望みもあるのだけんど
雑キノコも生えとらん。最近、遠くからやってきて、翌年のことも考えないで根こそぎ持って行ってしまう素人が
多くって、きのこが少なくなったよ。きのこは、ひとつ所から毎年は生えない。

ここへは(民宿しゃくなげ)毎年くるよ。俺も蕎麦が好きでね、もう、10年以上前にここの親爺は亡くなって
しまったのだけれど、おやじさんの打つ蕎麦はまた、格別のうまさでね。
大きい声では言えないが。



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