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11月○日
明後日から、1泊で金沢へ行くことになり、以前から気になっていた湯谷温泉へ電話をする。
湯谷温泉は金沢から小一時間の小牧ダムの放流口のほとりにある。
放流口のほとりというのは妙な表現だけれども、宿の窓をあけたら、右、斜め上に放流口が見えるような
そんな場所にある湯治宿。素泊まりのみの受付で地図を見る限り周りに食事のできるところも無さそうで、
ちょっと不便なようだけれど、急な日程だったので目ぼしい宿はどこも予約でいっぱい。そう、そんな訳で湯谷温泉へ電話をかけた。
「すいません、明後日から1泊、お部屋に空きはありませんか?」
「お部屋に空き?     うちへいらしたことはありますか?」
お部屋に空き?の次に5秒くらいの沈黙があった。
「うちは湯治専門の古い宿なのです。お食事は自炊していただけますが、お出しすることはできません。
云々。そこでですね、実際にいらしていただいて、こちらをみていただいて、古くて、古くて、古いですけれど、
それでも良いとおもっていただけるようでしたら、お泊りください。4時半までにどうぞ」

うむっ。宿泊をやんわり拒絶する温泉ってどんなんだろう。
無理にお願いするのも、何か、違うような感じがしたので「はい、わかりました。」と頷いて、
金沢市内に泊まって美味しいものを食べる夜に切り替えた。



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