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<市場にて>
腹ごしらえの後、リベルタ市場へ。市場は巨大で隅から隅まで活気に溢れている。
知らない言葉が四方八方飛び交っている。足元がこころもとない。豚が豚の顔で売られている。
豚の足、豚のしっぽ、豚の耳、
ドスンコンドスンコン鉈を振り下ろすおじさんが私を目で追ってくる。
口元だけが笑っている。通り過ぎるまでずっとおじさんを見た。
豚の足、豚の耳、豚の顔、顔、顔。こういうのって映画の中で見る景色だ。

   「写真を撮らせてください、おじさんの、出来ればその、
   豚の顔、隅っこに入れても良いですか?」そう言いたい。
   だけどもう、足元がふらついている。息が苦しいほどの活気。
   もう、ちょっと、なんというか、ここを出て、、、
   いや、出たくはない。とりあえず全体を把握して落ち着きたい。

 2階へ上る階段の途中、市場の1階がすっかり見渡せた。
 相方さんは身を乗り出して写真をとっている。
   私はというとここの空気にすっかりのみこまれて、
   何もできず、口元に笑みを浮かべて鉈をふるうおじさんの残像をみていた。
   後から上ってきたCD屋のおじさんにちょんと肩をたたかれる。
   「すごい景色ですね・・・すごいから、写真を撮っているの」と言う。
   相方さんはファインダーの中の世界にすっかり夢中。
   そんな様子をちょっと見ると「すごいかい?ここはいつもこんなさ」と言って、
   「まぁ、楽しんで」と今度はポンポンと2回肩をたたいて行ってしまう。
                        

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