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辺りがざわついた。ジーンズに下駄という姿でひょっこりと主役が現れた。
そうして胸の前で手をあわせて話し始めた。
「わたしは、下手な踊り手です。劇場で無くとも、田圃でも、路上でも
どこでも舞台になるのだという思いでやっています。
普通の劇場に慣れているお客様がいらしたら、ごめんなさい。
僕はこんなふうにやっています。」
というようなことを言って
「あと、30分もありますから、どうぞ、お気楽に、お気楽に。
お気楽にしていただけないとやる気も出ませんのでお気楽に」
と言って去って行った。

それから30分は、お尻の痛いのと、蚊で痒いのとの戦い。
あちこちで、パン!パン!と蚊を仕留める音。蟻んこは相変わらず。




右の隅の方に気配が来て、
いつの間にか場踊りが始まっていた。
気配に気がつかず蚊を仕留め続けるおばちゃん。
何やら物憂げに歩いてくる踊り手。


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