title/hyoutan

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 かれこれ四半世紀以上、「ミドリガメ」とつかず離れず暮らしております。

 特にかめフリークだとか、そういったことではないのです。子供の頃に、ひょんなきっかけで飼い始めて、何となく世話をしていたら時が経ってしまったというだけでして。彼らは、犬や猫のように肌触りが素敵なわけでもなく、ひざに乗ったりなついたりして、こちらの問いかけに応えてくれるわけでもありません。それどころか、いつまで経っても飼い主の認識さえしてくれない、意思疎通の乏しい間柄です。でも、無言でたたずむ様子を見ていると、すうっと心がほぐれてゆく。あれはどうしてなんでしょう。

 いてもいなくても同じだった気もするけれど、彼らなくしてはありえなかったかめ人生。たぶん私の、一番不思議な友人です。

 うちの子はごく普通の「ミドリガメ」、いわゆる「ミシシッピーアカミミガメ」という種類です。2匹います。四半世紀、とさらり流しましたが、今年で30歳を過ぎたか、もしかしたら32歳くらいにはなっているかもしれない。家族の誰ひとりとして正確なところを知りません。
「亀は万年」などと言われますが、ミドリガメの寿命は20年あまり。つまり、うちの子はすでに相当な長老さまということになります。
 日本人が、室内でペットとしてかめを飼い始めたのは、昭和30年代後半の高度成長期、おしゃれな公団が庶民の憧れになりつつあった頃だそうです。希望に満ちた昭和の空間とセットで普及し始めたとは、みどりがめ、やっぱり侮れないのです。

 彼らとの出会いは、小学校低学年の夏祭りの晩でした。
 縁日には、どこか物悲し気な見世物的小動物がつきものですが、金魚すくいやミニウサギ、ヒヨコなどの夜店に加えて、当時よく見かけたのが、金魚すくいならぬ「亀すくい」というものでした。
 金魚すくいは、持ち手のついたプラスチックの輪に、和紙のようなものを貼りつけて道具にします。破れないように水面を滑らせ、金魚が跳ねないタイミングですくえる子は、尊敬のまなざしで見られたものです。
 一方、亀すくいには、アイスクリームをサンドするためのウェハースのカップに、ワイヤーを輪にした持ち手をはめ込んで使っていた記憶があります。ウェハースなんて、水に入れただけですぐふやけますから、ほぼ成功しないだろうという子供だましです。でも私、まさかの1匹をすくってしまったようで、夜店の人も、大そう驚いておりました。

 ひも付きのビニール袋に入れられた、3センチほどの甲羅の子がめ。手のひらに載せると、小さな足をじたばた動かすのがくすぐったくて、これはかわいいと思いました。水平にして、そろそろと家に向かう帰り道、目つきが真剣なのも気に入りました。
 とりあえずこの子を、「かめた」と呼ぶことにしました。私の中では、当然のようにオスとして処理されており、性別のことなど考えも及びませんでした。
「かめた」は、虫かごに入れられ、水を少々注がれ、落ち着かない様子でうろうろしていました。餌も何を食べるのかわかりませんでしたし、飼い方も全くわかりませんでした。  

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