title/hyoutan

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 次の日、学校の図書室で図鑑を見ると、何匹かのかめが重なって、仲良く乗っている写真が載っていました。いわゆる「親亀の背中に子ガメが乗って」というシーンです。子供っていうのはいろいろ考えます。「もしかしたら、ひとりは寂しいのかもしれない」。それで、父親にお願いをして、ペットショップに連れて行ってもらうことにしました。お年玉貯金で、もう一匹買うつもりでした。

 大きなうねりのある池のような水槽に、「かめた」と同じく小さな子がめが所狭しとうごめいている絵は、なかなか衝撃的でした。みんなどこを目指しているのか、懸命に全身を動かして泳いだり歩いたりしている。数が多すぎて気持ち悪い気もしましたが、弟と一緒に直感で選んだ元気な子が「かめたろう」でした。またも無意識に、オスと決定してしまった私たちなのでした。
 
 自由に動き回れるサイズの水槽に砂利を敷き、溺れない程度に水を入れて、レンガで陸地をつくってやりました。
 元気にえさを食べ、水にぱしゃっと飛び込むように入ってゆく様子を見ているだけで、私たちは嬉しかった。水換えのついでに庭の芝生に放すと、たちまち茂みに見えなくなるほど足が速いのを見て、「かめ=のろま」のイメージは頭から消えました。えさは、海老のほかいろいろなものを粉末にして固めた「かめフード」。水面にまいて、少し水にふやけたくらいが好きなようでした。

 わからないことがあると、図書室で本を見返しました。育てながら読むと、体験が実感となって理解が早いことを知りましたが、「かめは、目も耳も頭もあまりよくない」という一文を見つけたときは、子供心にショックでした。さらには、私の推測とは裏腹に「かめはひとりでも寂しくない動物です」という記述も。「そんなの本人にしかわからないよ!」。私たち兄弟には疑問が噴出しましたが、ともかく、普通に世話をするに尽きると考えました。

 秋口になると食欲が徐々になくなり、まどろむ日が増えてきます。そろそろ冬眠の準備です。頭がすっぽりなるくらい砂利を深くしてやると、ある日、ふっと2匹の姿が消えていました。潜っていってしまったのです。冬の間は、砂利が乾燥しないよう、ときどき水をかけるのが仕事。「大丈夫かね、ちゃんと寝てるかね」。弟とひそひそ声で話すのが常でした。
 一度、冬眠前に庭で1匹行方不明になってしまったことがあります。ふたりして大泣きしましたが、その冬は1匹だけの冬眠になりました。春になって庭の草取りをしていると、芝生のなかに母が小さな穴を発見しました。中から出てきたのは、行方知れずのあの子だったのです。
 かめは冬眠を終えると、甲羅の1つ1つが脱皮をして、爪のようなものが剥がれ、ひと回り大きくなります。外で冬眠したほうの子は、水槽のときとは信じられないほどの成長ぶり。思い出深い出来事でした。

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