アノニマ・スタジオWeb連載TOP > かぞくのブリコラージュ~自分たちで暮らしを作る、日常の発明記~ もくじ > チャプター2 その7 ブリコラ家族の洗面所
文・写真・題字/中村家
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チャプター2
その7 ブリコラ家族の洗面所
大変ご無沙汰しています。
前回の記事が昨年12月に公開されて、なんと1年という月日が流れてしまいました。
連載の存在を忘れられてしまっていても不思議ではないほどの時間が、体感では「あっ」という間に過ぎていました。
わたしと家族は元気です。そして、無事メンバーが一名増えました。
2024年2月29日の末日、閏年の日に次女の実芽(ミメ)が生まれてきてくれ、もうすぐ10ヶ月。つかまり立ちしてなんと離乳食も食べ始めているのです。
実芽が笑うと、どんな時でも家族みんな笑ってしまう。なんて幸せな存在!と、こう書けることがとても嬉しい現在。
先日、ついについに、我が家のバスルーム…手前の洗面所の改装がほぼ終わりました。
着手したのは、2023年の12月。過去3回改装してはまたやり直し…を繰り返してきた我が家のつぎはぎライフの象徴のような場所、洗面所。
今度こそ完成形に、と床をひっぺがし、壁紙もひっぺがし、大作業した年末年始。床板をはってオイル塗装したり、壁を塗ったり、大きな棚を製作して壁にはめ込んだり、と大掛かりな作業を終え、あとはシンク周りを残すのみ。
我が家の洗面所は最初に改装した時からずっと、床も壁も、シンクの天板も青ベースの空間でした。ですが今回の改装ではガラリと変えて、床も壁も赤錆色(赤茶ではなく、赤錆、なんだそう。夫ひょーさん曰く)にしたのです。なぜかというと洗面台をレンガにしたい!というひょーさんのアイデアがあり、洗面台に貼るレンガに合わせての赤錆カラー。新鮮。
シンク周りにレンガを貼りさえすれば、洗面所が完成する、というところまでは辿り着いていた1月。レンガは洗面所の戸棚の中にどっちり箱に入って詰まれ、あと1日、作業に時間を費やせば完成です。
なのに、どうしてもその1日に向き合えないまま、そこから10ヶ月という月日が流れてしまったのです。
8割できたところで作業をストップするのは、ひょーさんのいつもの展開でもあり(なぜなのかは謎です)あと2割だよ、やろう!とお尻を叩くのはわたしの役目。なのですが、なぜだろう。「やろう!」と言う気になれなかった。それは洗面所ができたら、この原稿にとりかかる、家族の今を言葉にする、そのことを少し恐れていたからかもしれません。
臨月を迎えていた1月、我が家は台風の目の中にいるような毎日でした。家族が増えるって、想像以上に大変でした。
望むことも、思うことも当たり前にちがうひとりとひとりとひとりとひとり、でバランスを取り合いながら「家族」をしている。そこに新しいメンバーが加わる、というのは今までのバランスが大きく変わり、また新しいバランスをみんなで試行錯誤していくしかない。
子どもって、それぞれの成長の中で親の気持ちや目をぐっと求めるタイミングがあります。長女の花種さんは思春期を迎え、反発がありつつも、ある意味でとっても親を必要としてくれていた時だったのだと思います。そんなタイミングでニューメンバーがやってくることになってしまったものだから。
一旦、今まで積みあげてきたのは崩れちゃうのはしょうがないとわかっていても、バランバランと崩れ果てたひとつひとつを手にとって、これを新たに積みあげていく方法?思いつかないよ…というような感じでした。
不穏で不安もいっぱいのまま、無事赤ちゃん誕生。そこからも少し積めたかな?と思ってもすぐに崩れるバランスゲームが続き、ため息と深呼吸の試行錯誤は続き…。
ある日、ベビーベッドの中の実芽を覗き込み、花種さんと樹根と一緒に笑えた日がついにやってきた。
あ。ここからあたらしい家族のかたちが積み上がっていくんだと思えた日、あの日はもしかしたら、子どもたちが生まれた日と同じくらい、嬉しい日だった気がします。
生まれてきた赤ちゃんも、新しい人を受け入れてくれた子どもたちも、ありがとうと、心から思いました。
「家族」なんだから、受け入れるなんて当たり前。わたし自身どこかでそう思っていたからこそ、とても苦しい時間だったけれど、「誰かを受け入れる」ことは当たり前ではない。親を受け入れる、子どもを受け入れる、きょうだいをうけいれる…。それは当たり前、ではないのだと思います。改めて感じられた大切なこと。
「家族」だって「家族」だからこそ、受け入れるのにはたくさんの葛藤があるもので、でもだからこそ葛藤を越えて、受け入れてくれた姿に、子どもたちの姿に、わたしはとっても感動したのです。
と、わたしはきっと家族のことを綴るのに少し時間がほしかったのだと思います。こうして書きながら、過去を振り返っている!と感じて、今、あたらしい家族のバランスがひとつひとつ積みかさねられているのを感じます。
先日、ひょーさんに「レンガはろう!」と言いました。
わたしのこの一連の思いを知ってか知らずか「ついにか…!」と、ひょーさんは言い、あっという間にレンガ作業は始まり、終わりました。
洗面所ができた!
あ、完成はしていません…。あとはレンガとシンクの間にゴムを流し込めば完成なので、9.5割完成です。
わたしは。このニュー家族のかたちを、今こそ書き綴っていきたいという気持ちがムクムクと湧いてきています。
この連載は実は次回で完結予定です。コロナ期のシーズン1から始まり、自分たちの気持ちに正直にまっとうに、そんな暮らし方をしようと試みて、作っては壊し、また感じて考えて、試行錯誤のブリコラージュの日々の果て。今わたしたち家族が作ったある場所の話。
最終回もどうぞよろしくお願いします!
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中村俵太(父/夫)
「HYOTA」として空間デザインを生業にしつつ、中村家のあらゆる『家族』活動のディレクター的立ち位置も。決断力と実行力はあるけど計画や段取りは非常に苦手。人見知り。日本生まれ日本育ちなのに日本語がおかしい。極めて楽天的でポジティブ。家族愛は強いがピントがいつもややずれがち。
中村暁野(母/妻)
家族や生活をテーマに執筆活動を行なっている。理想を追って突っ走りがち。でもその突っ走りによって人生動かしてきたという自負もあるので、引き続き突っ走る気まんまん。ブリコラ生活の果て2021年夏「家族と一年商店」がオープンし小商店主という予想だにしていなかった人生展開もスタート中。
中村花種(娘)
繊細で敏感な子ども時代を経て、現在爆発的パワーで家族を圧倒する思春期真っ只中の14歳。家族以外の人には丁寧で優しく好感度大な人物へと早変わり。内弁慶の壁を越え、自分の世界を築こうと成長中。
中村樹根(息子)
マイペースでごきげんな7歳。人類みな友達的オープンマインド。小学生になってから大谷翔平に心奪われ、野球大好き。甘いもの大好き。虫歯になりがち。姉とはトムとジェリーのような関係。妹を溺愛中。
中村実芽(娘)
閏日に生まれてきた末っ子。家族の人気者。食べるの大好きで、隙あらばみんなと同じものを食べようとする10ヶ月。いつも落ち着いていて、生まれて以来、大泣きしたのは数えるほど。
コグマ(犬)
バター亡き後やってきた元保護犬。命名したのは花種さんで、韓国語で「さつまいも」の意味。番犬気質で家族以外には吠えまくるけど、優しい性格。困り顔がチャームポイント。
バター(うさぎ)
花種さんの膝に飛び乗るすきを常に伺っていた、アメリカンファジーロップのオス。2022年の3月、天国へ...。花種さんの部屋の前の、ユスラウメの木の下に眠っている。
家族カレンダー
中村暁野定価 1760円(本体価格1600円)
ひとつの家族を自身の家族で取材して制作する雑誌『家族と一年誌 家族』編集長である著者による初めての自著。ブログに綴った5年の間には、たくさんの幸せな日とそうでない日とがありました。「家族」を通して自分と社会に向き合い続けた実験の記録。一日々々のかけがえのなさを感じられる一冊です。
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