アノニマ・スタジオWeb連載TOP > 暮らしのなかのSDGs もくじ > その8 「社会貢献」を身近に、たのしく
イラスト/江夏潤一
その8
「社会貢献」を身近に、たのしく
私たち一人ひとりがより良く暮らしていくために、社会や地球環境に良いことを考えるのは、ごく自然なことです。アクティビストとは、「意識高く活動する人」ではなく、「世の中の問題と向き合い、自分に正直に生きている人」。誰かのための行動は、自分自身のためでもあるのです。
昨今では、社会の在り方や考え方はどんどん多様化していて、ボランティアや募金活動などはもちろん、日常の中での選択や行動から社会貢献につながっていくものもあります。特別なことではなく、誰でも身近にできること。それらにはどんな形があるのでしょうか。
今回は、いろいろな方法で社会貢献を考えるプロジェクト、「THINKS(シンクス)」について、ディレクターの石井なお子さんにお話を伺いました。
異なる立場にいる人が
「昔からずっと、社会の中で弱い立場にいる人のことが気になるんです。当事者じゃないとわからないことはもちろんあるけど、“わからない”で終わりたくないと思っていて。まさか今の仕事につながるとは想像していませんでしたけど」。
ファッション&インテリアスタイリストとして活躍する石井なお子さん。2016年にスタートした自身のプロジェクトである「THINKS」は、“誰かに、地球に良いことを、デザインコンシャスに”がコンセプト。持続可能なものづくりを世の中に広く伝える手段であり、社会貢献にかかわる機会が身近にない人たちへのアプローチの形でもあります。
活動内容は、人や地球環境に配慮した商品をセレクトしたオンラインショップの運営やオリジナルプロダクトのデザイン、伝統的なものづくりの活動支援と普及活動、活動者間や活動者と消費者のネットワークの提案などと多岐に渡ります。
THINKSの立ち上げにあたり大きなきっかけとなったのは、2011年に起こった東日本大震災。取材日は3月11日。今年で10年という月日が流れました。「人って困難に直面したり、大きな出来事がないと、なかなか立ち止まって考えないですよね。当時、まわりでは移住する人も多くて、私もいろいろと考え悩んだ時期でもありました。生きているあいだに何をしていれば幸せだろうと考えたとき、思った通りに働きながら生きていたいと思ったんです」。
母の教えを、
「社会貢献」というキーワードは、幼い頃から身近に存在していたという石井さん。THINKSの考え方のベースにあるのは、今は亡きお母様からの教えでもありました。「母は普通の主婦でしたし、活動家というわけでもないんですけど、社会問題をきちんと家庭に持ち込んで話す人でした。それが幼い子ども相手でも真剣に。ときどき刺激が強すぎることもありましたね(笑)。人には優しくとか、困っている人がいたら助けるとか、誰にでも平等に権利があるとか、子どもの頃から当たり前のように言われてきたことは、大人になった今でも染み付いているんです。SDGsには17の目標がありますが、母が言っていたことと重なる部分もたくさんあるなあと感じます」。
もったいないから電気は点けっぱなしにしないこと。トイレの水がちゃんと流れるのは当たり前ではないこと。ごはんを満足に食べられない子どもがいること。そういったことを、一つひとつ事あるごとに教えてもらうとともに、さらには原発の話題まで。目を背けたくなるような戦争映画なども、子どもの頃にたくさん観た記憶があるといいます。「ただ、いつも最後には必ず、“私が伝えていることだけが正しいわけではないし、誰かに強制することではないからね”と言っていました。考え方や生き方は人それぞれだけど、世の中のために自分ができることは絶対にあるから、それを見つけなさい、と」。
この春から大学生になる息子さんと、中学生になる娘さんを持つ2児の母でもある石井さん。自身の体験から、家庭や暮らしの中で、身近な人とこういった話をすることは大切にしています。「社会問題や社会貢献については、学校の授業で学ぶ機会はあるものの、それが“勉強”になっちゃうと、どうしてもリアリティが薄れてしまう。だからなるべく学校以外の場でも取り入れていけたらと思います。SDGs然り、どういうわけか身近な人との方が話題になりにくいような気もします。大人も子どもももっと自然に話せるようになると良いですよね」。
「別にストイックでいる必要はなくて、全ては“やさしさ”にあると思います。自分の行動は、誰にどんな形で届くのかなというのを物差しにしてみるといいのかも。誰にもやさしくないことはやめればいいし、誰かがちょっとでも幸せになることがあれば、自分の暮らしや行動も肯定できると思います」。
例えば、食べるものに気を使うことと、忙しいときに簡単な食事で済ますことは、どちらもそれぞれSDGsにつながっているといえます。仕事と子育てに追われ多忙な日々を送っていた頃、ここでもまた、お母様の言葉に救われたと話す石井さん。「普段は食にこだわる人なんですけど、“今日はもう疲れたからごはん買ってきたよ”とか、“手作りすることだけが良いってわけじゃないのよ、便利なものは賢く使って手を抜きなさい”と言われたことがあって。何事もバランスって大切ですよね」。働いて疲れて帰ってきた人や、子育て中の人の家事が少しでも楽になることを考えたら、ファストフード=体に悪いもの、だけではないのだということ。より良い社会のために大切なことは、「正しさ」よりも「やさしさ」なのかもしれません。
社会と私がつながるための
THINKSで取り扱っている商品のラインナップには、贈り物として喜ばれるものも多く揃っています。それらは形あるものとしてだけではなく、見えない部分を想像させてくれる無形の「ギフト」でもあり、贈る人と受け取る人が、いずれも自然かつ身近な形で社会貢献に参加することができます。それぞれのプロダクトの背景こそ知ってほしい。一つひとつにそんな思いが込められています。
たとえば、新作のアップサイクルフラワーキャンドルは、結婚式で使用された花材とキャンドルを回収し、溶かし直したキャンドルとドライにした花から新たに生み出されたもの。ウエディングの仕事も多い石井さんが、何か循環する仕組みができないだろうかと考えて形にしたものです。また、オリジナルのトートバッグは、福井県にある「障害者支援センターひまわり」で働く皆さんが作ったもの。それぞれの工程と、作る人に合った得意な作業を組み合わせて作り上げています。サイト内では、フェアトレード、オーガニック、リサイクル&アップサイクル、地場産業、福祉支援などのキーワードから商品を選ぶこともでき、そのものがどのようにして作られているかまで追うことができます。
ワークショップなども開催していて、ものと人、人と人をつなぐ場づくりも積極的に行っています。最後に、これからやりたいと考えていることを語ってくれました。「このご時世なので、今はなかなか難しいところもありますが、あらゆる人に参加してもらえるようなノーボーダーなイベントを実現させたいんですよね。子育て中の人が来やすい場作りも。このプロジェクトだからこそできることを、考えてながらやっていきたいと思っています」。
関連するSDGsの目標
昨今では、社会の在り方や考え方はどんどん多様化していて、ボランティアや募金活動などはもちろん、日常の中での選択や行動から社会貢献につながっていくものもあります。特別なことではなく、誰でも身近にできること。それらにはどんな形があるのでしょうか。
今回は、いろいろな方法で社会貢献を考えるプロジェクト、「THINKS(シンクス)」について、ディレクターの石井なお子さんにお話を伺いました。
異なる立場にいる人が
“気になる”
「昔からずっと、社会の中で弱い立場にいる人のことが気になるんです。当事者じゃないとわからないことはもちろんあるけど、“わからない”で終わりたくないと思っていて。まさか今の仕事につながるとは想像していませんでしたけど」。ファッション&インテリアスタイリストとして活躍する石井なお子さん。2016年にスタートした自身のプロジェクトである「THINKS」は、“誰かに、地球に良いことを、デザインコンシャスに”がコンセプト。持続可能なものづくりを世の中に広く伝える手段であり、社会貢献にかかわる機会が身近にない人たちへのアプローチの形でもあります。
活動内容は、人や地球環境に配慮した商品をセレクトしたオンラインショップの運営やオリジナルプロダクトのデザイン、伝統的なものづくりの活動支援と普及活動、活動者間や活動者と消費者のネットワークの提案などと多岐に渡ります。
Our Vision
ひとによいこと、環境によいこと。
社会によいこと。よい働き方。
教育のためになること。伝統をまもること。
素敵なプロダクト。かっこいいデザイン。
なにかの組み合わせで素晴らしいものが生まれること。
わたしたちはいろいろなやりかたで
社会貢献を考えていきます。
THINKSの立ち上げにあたり大きなきっかけとなったのは、2011年に起こった東日本大震災。取材日は3月11日。今年で10年という月日が流れました。「人って困難に直面したり、大きな出来事がないと、なかなか立ち止まって考えないですよね。当時、まわりでは移住する人も多くて、私もいろいろと考え悩んだ時期でもありました。生きているあいだに何をしていれば幸せだろうと考えたとき、思った通りに働きながら生きていたいと思ったんです」。
母の教えを、
未来の子どもたちへ
「社会貢献」というキーワードは、幼い頃から身近に存在していたという石井さん。THINKSの考え方のベースにあるのは、今は亡きお母様からの教えでもありました。「母は普通の主婦でしたし、活動家というわけでもないんですけど、社会問題をきちんと家庭に持ち込んで話す人でした。それが幼い子ども相手でも真剣に。ときどき刺激が強すぎることもありましたね(笑)。人には優しくとか、困っている人がいたら助けるとか、誰にでも平等に権利があるとか、子どもの頃から当たり前のように言われてきたことは、大人になった今でも染み付いているんです。SDGsには17の目標がありますが、母が言っていたことと重なる部分もたくさんあるなあと感じます」。もったいないから電気は点けっぱなしにしないこと。トイレの水がちゃんと流れるのは当たり前ではないこと。ごはんを満足に食べられない子どもがいること。そういったことを、一つひとつ事あるごとに教えてもらうとともに、さらには原発の話題まで。目を背けたくなるような戦争映画なども、子どもの頃にたくさん観た記憶があるといいます。「ただ、いつも最後には必ず、“私が伝えていることだけが正しいわけではないし、誰かに強制することではないからね”と言っていました。考え方や生き方は人それぞれだけど、世の中のために自分ができることは絶対にあるから、それを見つけなさい、と」。
この春から大学生になる息子さんと、中学生になる娘さんを持つ2児の母でもある石井さん。自身の体験から、家庭や暮らしの中で、身近な人とこういった話をすることは大切にしています。「社会問題や社会貢献については、学校の授業で学ぶ機会はあるものの、それが“勉強”になっちゃうと、どうしてもリアリティが薄れてしまう。だからなるべく学校以外の場でも取り入れていけたらと思います。SDGs然り、どういうわけか身近な人との方が話題になりにくいような気もします。大人も子どもももっと自然に話せるようになると良いですよね」。
「正しさ」よりも「やさしさ」を物差しに
社会貢献にしても、SDGsの17の目標にしても、何のためであり、誰のための幸せか?というところからスタートして、いろいろな視点から考えながら柔軟に解釈していけば、自分にとってより良いアクションが見つかるはずです。「別にストイックでいる必要はなくて、全ては“やさしさ”にあると思います。自分の行動は、誰にどんな形で届くのかなというのを物差しにしてみるといいのかも。誰にもやさしくないことはやめればいいし、誰かがちょっとでも幸せになることがあれば、自分の暮らしや行動も肯定できると思います」。
例えば、食べるものに気を使うことと、忙しいときに簡単な食事で済ますことは、どちらもそれぞれSDGsにつながっているといえます。仕事と子育てに追われ多忙な日々を送っていた頃、ここでもまた、お母様の言葉に救われたと話す石井さん。「普段は食にこだわる人なんですけど、“今日はもう疲れたからごはん買ってきたよ”とか、“手作りすることだけが良いってわけじゃないのよ、便利なものは賢く使って手を抜きなさい”と言われたことがあって。何事もバランスって大切ですよね」。働いて疲れて帰ってきた人や、子育て中の人の家事が少しでも楽になることを考えたら、ファストフード=体に悪いもの、だけではないのだということ。より良い社会のために大切なことは、「正しさ」よりも「やさしさ」なのかもしれません。
社会と私がつながるための
アクション
THINKSで取り扱っている商品のラインナップには、贈り物として喜ばれるものも多く揃っています。それらは形あるものとしてだけではなく、見えない部分を想像させてくれる無形の「ギフト」でもあり、贈る人と受け取る人が、いずれも自然かつ身近な形で社会貢献に参加することができます。それぞれのプロダクトの背景こそ知ってほしい。一つひとつにそんな思いが込められています。たとえば、新作のアップサイクルフラワーキャンドルは、結婚式で使用された花材とキャンドルを回収し、溶かし直したキャンドルとドライにした花から新たに生み出されたもの。ウエディングの仕事も多い石井さんが、何か循環する仕組みができないだろうかと考えて形にしたものです。また、オリジナルのトートバッグは、福井県にある「障害者支援センターひまわり」で働く皆さんが作ったもの。それぞれの工程と、作る人に合った得意な作業を組み合わせて作り上げています。サイト内では、フェアトレード、オーガニック、リサイクル&アップサイクル、地場産業、福祉支援などのキーワードから商品を選ぶこともでき、そのものがどのようにして作られているかまで追うことができます。
ワークショップなども開催していて、ものと人、人と人をつなぐ場づくりも積極的に行っています。最後に、これからやりたいと考えていることを語ってくれました。「このご時世なので、今はなかなか難しいところもありますが、あらゆる人に参加してもらえるようなノーボーダーなイベントを実現させたいんですよね。子育て中の人が来やすい場作りも。このプロジェクトだからこそできることを、考えてながらやっていきたいと思っています」。
Profile
石井なお子(いしい・なおこ)
スタイリスト。1994年に独立後、フリーランスとして雑誌、広告などで活躍する。東京・恵比寿で自身のセレクトショップ「naughty」を経営したのち、2016年より「THINKS」をスタート。
THINKS(シンクス)
www.thinksthinks.com/
関連するSDGsの目標
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暮らしのなかのSDGs
今と未来をつなげるものさし
編/アノニマ・スタジオ定価 1650円(本体価格1500円)
持続可能な社会をつくるために、どうしたらいい? 経済、社会、環境、どれもが私たちの暮らしに結びついています。日常の場面から考える「SDGs思考」を身につけ、「SDGsの“ものさし”」を自分のなかに持つことができるアイデアブック。SDGs入門書としてもおすすめ。
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