アノニマ・スタジオWeb連載TOP > 暮らしのなかのSDGs もくじ > その14 「量り売り」という持続可能なスタイル
イラスト/江夏潤一
その14
「量り売り」という持続可能なスタイル
持続可能な暮らしのために大切なことは、自然と人と経済の「バランス」がとれていること。
無理なく、無駄なく。自分にとっても、社会や環境にとっても良い形とは?
今回は、ゴミ問題やフードロスの問題と向き合いながら、ゼロ・ウェイストな量り売りのお店の普及に取り組む、「斗々屋」広報担当のノイハウス萌菜さんにお話を伺いました。
「エコロジカル・フットプリント」とは、人間生活が地球環境に与えている影響や負荷を示す指標のこと。先進国であればあるほど大きくなる傾向にあり、いずれも大量生産・大量消費、そして大量廃棄が大きな要因となっています。
国別でみると日本は世界で38番目に大きく、世界平均の約1.7倍。世界の人々が日本人と同じ生活をした場合、地球2.9個分ものエネルギーが必要という計算になります。日本の環境負荷で最も多いのは二酸化炭素の排出で、全体の7割以上を占めているのが現状です。
斗々屋もコンセプトに掲げているように、世界が理想とする持続可能な暮らしを実現するためには、「地球1個分の暮らし」が可能になるようなライフスタイルが必要です。経済成長=環境負荷というスパイラルを断ち切り、環境に配慮した経済活動を行うことで、「限りある地球の環境資源」と「限りない経済発展」の両立は可能になると考えています。
「ものを買わないことや自給自足の生活をすることは、すべての人ができるわけではありませんし、それだけがエコの形ではないと思っています。量り売りというのは、ビジネスとしても成り立つけれど、環境負荷が少ないというメリットがあるので、それぞれのバランスが取れると思っています。経済を発展させられるというのもポイントで、これは国としても企業としても大切なことです」。
自身の生活では既にゼロ・ウェイストを実践し、食材のほとんどを量り売りで購入しているため、ゴミを出すのは3、4ヶ月に1回程度。日本では週に数回ゴミを出す人が大半を占めるなか、梅田さんにとっての“普通”を事業に落とし込んだのが「ゼロ・ウェイストな量り売り」というスタイルなのです。
斗々屋の量り売り専用の卸事業は2018年に開始。小売事業のビジネスプランは今から5年ほど前からあったものの、当時はゼロ・ウェイストやSDGsといったキーワードがそこまで浸透しておらず、あらためて時期を考えることに。
2019年9月には、東京・代々木公園の隣で「nue by Totoya」をスタート。日曜限定の営業だったこともあり、営業日を増やしたいと考え、今年1月に東京・国分寺にある「カフェスロー」内に移転。さらに最近、直営2号店となる京都店がオープンしたばかり。日本初の「ゼロ・ウェイスト・スーパーマーケット」として注目が集まっています。
初めは梅田さんが一人で立ち上げた斗々屋。そこから一人、また一人と価値観を共有する仲間たちが集まり、現在は7名を主としたチームで取り組んでいます。バックグラウンドは異なるけれど、社員もアルバイトも目指す方向は同じ。ホームページの「スタッフ紹介:みんなの想い」からもそのことが伝わってきます。
ゼロ・ウェイストのモデルショップ
「nue by Totoya」は、東京・国分寺にある老舗オーガニックカフェ「カフェスロー」の一角にあります。「nue」はフランス語で「裸」。個包装していない状態のことを表していて、パッケージフリーでゼロ・ウェイストな買い物ができる場所として人気を集めています。
量り売りの商品はさまざま。パスタや豆、ドライフルーツはもちろん、ワインや調味料、ハーブやお茶、クッキーやチョコレート。さらには洗剤なども。ゼロ・ウェイストを実践するのに役立つ、オーガニックコットンのエコバックや蜜ろうラップなどもあります。最近では土曜日限定で、三鷹で自家製堆肥を利用した野菜作りを行う「鴨志田農園」の野菜も販売しているそう。
扱う商品の基準は大きく4つ。地球環境や生産者の健康を害さない方法で生産されたもの。ごみを極力出さないように最大限配慮して仕入れたもの。適正な価格で取引されたフェアトレード商品。そして、料理人が認めるこだわりの味。利用するお客さんの目線と、生産者さんなど取引先との関係性を大切にすると同時に、「安心安全」で「おいしい」という基準は「あたりまえ」であってほしいと考えています。
商品を買うときは、対面で手渡してもらうのでは?というイメージがあったのですが、実際にお店に行ってみると、ほぼセルフ。さらに、感染防止対策も徹底しているので、衛生面でも安心です。ちょうどお店にいらしたお客さんが、慣れた様子で持参した容器に食材を詰めていました。
店内には、初めて来店する人にもわかりやすいように丁寧に説明が書いてあります。まずは容器の重さを量る。次に、容器の蓋に重さを書いて、ガラス製のディスペンサーから必要な分だけ容器に入れる。そして最後にお会計、という仕組みです。説明してくれたのは、スタッフの欠畑悠さん。
「国産の有機食材を使った調味料って、本当に美味しいんですよ。オーガニックのものは意識すれば買えるけれど、ちょっと高いと感じる方もいらっしゃると思います。でも、美味しいものって納得できるので。量り売りだと少量ずつ試せるのも魅力です」(欠畑さん)。
生活者にとって日常の選択肢であり
現在の事業は、直営店とオーガニック食材の卸事業、量り売りやゼロ・ウェイスト・ショップを始めたい人へ向けたオンライン講座や現場研修の三本柱。「斗々屋としては、自分たちのお店を増やしたいというよりも、各地で量り売りのお店が増えていくことの方が大切なんですよね。そうしないと、日常的なお店というより専門店にとどまってしまうので。私たちがモデルケースになれたらと思っています。社会的な変化の壁って、自分が独占してしまうことによって、広がるペースが遅くなることが多い気がします。スピード感を持ってやっていくためには、一人よりもみんなでやるほうが絶対に良いと思うんです」。自分たちのノウハウを共有し、周囲をどんどん巻き込むことで斗々屋のようなスタイルを広げていきたいと、ノイハウスさんは話します。
次回記事では、京都にオープンしたばかりのゼロ・ウェイストなスーパーマーケット「斗々屋 京都店」についてご紹介しますので、どうぞお楽しみに。
無理なく、無駄なく。自分にとっても、社会や環境にとっても良い形とは?
今回は、ゴミ問題やフードロスの問題と向き合いながら、ゼロ・ウェイストな量り売りのお店の普及に取り組む、「斗々屋」広報担当のノイハウス萌菜さんにお話を伺いました。
「地球1個分の暮らし」を目指して
ごはんを食べる。お風呂に入る。インターネットを使う。エアコンをつける。荷物を送る。買い物にいく。車を運転する。飛行機に乗る……。私たちの生活には、何をするにも何かしらのエネルギーが必要です。ゆえに、地球からのさまざまな恵みがなければ暮らしは成り立ちません。自分の生活をこのままキープすると、地球何個分のエネルギーが必要か、考えたことがあるでしょうか?「エコロジカル・フットプリント」とは、人間生活が地球環境に与えている影響や負荷を示す指標のこと。先進国であればあるほど大きくなる傾向にあり、いずれも大量生産・大量消費、そして大量廃棄が大きな要因となっています。
国別でみると日本は世界で38番目に大きく、世界平均の約1.7倍。世界の人々が日本人と同じ生活をした場合、地球2.9個分ものエネルギーが必要という計算になります。日本の環境負荷で最も多いのは二酸化炭素の排出で、全体の7割以上を占めているのが現状です。
参考リンク
◆WWF 地球1個分の暮らしの指標
◆環境省 環境白書
斗々屋もコンセプトに掲げているように、世界が理想とする持続可能な暮らしを実現するためには、「地球1個分の暮らし」が可能になるようなライフスタイルが必要です。経済成長=環境負荷というスパイラルを断ち切り、環境に配慮した経済活動を行うことで、「限りある地球の環境資源」と「限りない経済発展」の両立は可能になると考えています。
「ものを買わないことや自給自足の生活をすることは、すべての人ができるわけではありませんし、それだけがエコの形ではないと思っています。量り売りというのは、ビジネスとしても成り立つけれど、環境負荷が少ないというメリットがあるので、それぞれのバランスが取れると思っています。経済を発展させられるというのもポイントで、これは国としても企業としても大切なことです」。
「斗々屋」のはじまりから今まで
代表の梅田温子さんはフランス在住。19歳で渡仏して料理人の道へ進み、その後レストランや料理人向けに、オーガニック食材やワインなどの卸販売を始めました。その時に、自然のなかで作られたものを個包装という不自然な形で流通させることへの矛盾を感じたのだそうです。自身の生活では既にゼロ・ウェイストを実践し、食材のほとんどを量り売りで購入しているため、ゴミを出すのは3、4ヶ月に1回程度。日本では週に数回ゴミを出す人が大半を占めるなか、梅田さんにとっての“普通”を事業に落とし込んだのが「ゼロ・ウェイストな量り売り」というスタイルなのです。
斗々屋の量り売り専用の卸事業は2018年に開始。小売事業のビジネスプランは今から5年ほど前からあったものの、当時はゼロ・ウェイストやSDGsといったキーワードがそこまで浸透しておらず、あらためて時期を考えることに。
2019年9月には、東京・代々木公園の隣で「nue by Totoya」をスタート。日曜限定の営業だったこともあり、営業日を増やしたいと考え、今年1月に東京・国分寺にある「カフェスロー」内に移転。さらに最近、直営2号店となる京都店がオープンしたばかり。日本初の「ゼロ・ウェイスト・スーパーマーケット」として注目が集まっています。
初めは梅田さんが一人で立ち上げた斗々屋。そこから一人、また一人と価値観を共有する仲間たちが集まり、現在は7名を主としたチームで取り組んでいます。バックグラウンドは異なるけれど、社員もアルバイトも目指す方向は同じ。ホームページの「スタッフ紹介:みんなの想い」からもそのことが伝わってきます。
ゼロ・ウェイストのモデルショップ
「nue by Totoya」
「nue by Totoya」は、東京・国分寺にある老舗オーガニックカフェ「カフェスロー」の一角にあります。「nue」はフランス語で「裸」。個包装していない状態のことを表していて、パッケージフリーでゼロ・ウェイストな買い物ができる場所として人気を集めています。量り売りの商品はさまざま。パスタや豆、ドライフルーツはもちろん、ワインや調味料、ハーブやお茶、クッキーやチョコレート。さらには洗剤なども。ゼロ・ウェイストを実践するのに役立つ、オーガニックコットンのエコバックや蜜ろうラップなどもあります。最近では土曜日限定で、三鷹で自家製堆肥を利用した野菜作りを行う「鴨志田農園」の野菜も販売しているそう。
扱う商品の基準は大きく4つ。地球環境や生産者の健康を害さない方法で生産されたもの。ごみを極力出さないように最大限配慮して仕入れたもの。適正な価格で取引されたフェアトレード商品。そして、料理人が認めるこだわりの味。利用するお客さんの目線と、生産者さんなど取引先との関係性を大切にすると同時に、「安心安全」で「おいしい」という基準は「あたりまえ」であってほしいと考えています。
商品を買うときは、対面で手渡してもらうのでは?というイメージがあったのですが、実際にお店に行ってみると、ほぼセルフ。さらに、感染防止対策も徹底しているので、衛生面でも安心です。ちょうどお店にいらしたお客さんが、慣れた様子で持参した容器に食材を詰めていました。
店内には、初めて来店する人にもわかりやすいように丁寧に説明が書いてあります。まずは容器の重さを量る。次に、容器の蓋に重さを書いて、ガラス製のディスペンサーから必要な分だけ容器に入れる。そして最後にお会計、という仕組みです。説明してくれたのは、スタッフの欠畑悠さん。
「国産の有機食材を使った調味料って、本当に美味しいんですよ。オーガニックのものは意識すれば買えるけれど、ちょっと高いと感じる方もいらっしゃると思います。でも、美味しいものって納得できるので。量り売りだと少量ずつ試せるのも魅力です」(欠畑さん)。
生活者にとって日常の選択肢であり
これからのビジネスモデルでありたい
現在の事業は、直営店とオーガニック食材の卸事業、量り売りやゼロ・ウェイスト・ショップを始めたい人へ向けたオンライン講座や現場研修の三本柱。「斗々屋としては、自分たちのお店を増やしたいというよりも、各地で量り売りのお店が増えていくことの方が大切なんですよね。そうしないと、日常的なお店というより専門店にとどまってしまうので。私たちがモデルケースになれたらと思っています。社会的な変化の壁って、自分が独占してしまうことによって、広がるペースが遅くなることが多い気がします。スピード感を持ってやっていくためには、一人よりもみんなでやるほうが絶対に良いと思うんです」。自分たちのノウハウを共有し、周囲をどんどん巻き込むことで斗々屋のようなスタイルを広げていきたいと、ノイハウスさんは話します。次回記事では、京都にオープンしたばかりのゼロ・ウェイストなスーパーマーケット「斗々屋 京都店」についてご紹介しますので、どうぞお楽しみに。
Shop Data
nue by Totoya
東京都国分寺市東元町2-20-10 (Cafe Slow内)
営業時間:平日:11:30-18:00、土日祝:11:30-18:00
定休日:月曜・毎月18日
www.nuebytotoya.com
<<連載もくじ はじめに >>
編/アノニマ・スタジオ
アノニマ・スタジオは、KTC中央出版の「ごはんとくらし」をテーマとしたレーベルです。食べること、住まうこと、子育て、雑貨・・・暮らしを少し豊かにしてくれる生活書を中心に、本づくりやイベントを行っています。
暮らしのなかのSDGs
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編/アノニマ・スタジオ定価 1650円(本体価格1500円)
持続可能な社会をつくるために、どうしたらいい? 経済、社会、環境、どれもが私たちの暮らしに結びついています。日常の場面から考える「SDGs思考」を身につけ、「SDGsの“ものさし”」を自分のなかに持つことができるアイデアブック。SDGs入門書としてもおすすめ。
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