アノニマ・スタジオWeb連載TOP > 暮らしのなかのSDGs もくじ > その15 「ゼロ・ウェイスト」なスーパーマーケットという選択肢

イラスト/江夏潤一


その15

「ゼロ・ウェイスト」な
スーパーマーケット
という選択肢


スーパーマーケットは、生活者である私たちにとって身近な場所です。最近では自宅で食事をとる機会が増え、足を運ぶ頻度が増えている人も多いのではないでしょうか。さまざまな食材や生活用品が揃い、安くて便利。日常生活を送るうえで、物質面でも精神面でも安心感を与えてくれる存在でもあります。
その一方で、利便性や安心感と引きかえに、多くの無駄が生まれてしまっているのも事実。昨年7月に全国でスタートしたレジ袋の有料化により、エコバッグを持参する人は多く見かけるようになりましたが、食材や食品のパッケージはほとんどが使い捨て。もったいないとは思いつつも、そのシステムに抗うことなく、そのまま購入する人が大半だと思います。
「一人ひとりの暮らしが変われば、社会が変わる」というと、きれいごとのように感じてしまいますが、少し違った言い方に変えてみるとどうでしょう。「スーパーマーケットが変われば、暮らしが変わる」。現実味が増してきませんか。
今回は、7月末にオープンしたばかりの「斗々屋ととや 京都本店」について、前回に続き「斗々屋」広報担当のノイハウス萌菜もなさんにお話を伺いました。




ごみの出ない
スーパーマーケットとは?

2021年7月31日、個包装をしないパッケージフリーな量り売り店の普及に取り組む斗々屋は、京都市上京区に日本初のゼロ・ウェイスト・スーパーマーケット「斗々屋 京都本店」をオープンしました。東京・国分寺の量り売り専門店「nueにゅ  byばい  Totoyaととや」に続く2号店となるこの店舗は、日中はスーパー、夕方以降はレストランと2つの機能を持っています。
生活に必要なものが揃うスーパーマーケットとして規模を拡大し、取り扱う商品は1000品目を目指しているといいます。パスタやドライフルーツ、ワインや調味料などのほか、新たに生鮮食品も加わりました。オーガニックの野菜や果物、肉や魚に卵、そしてなんと、納豆まで。ほかにも日用品や化粧品なども揃っています。
「どうすればゼロ・ウェイストにできるかを考えて、デポジット式のリターナブル容器や量り売りを便利にするための最新のテクノロジーを導入しました。これがモデルケースになれば、他のお店でも取り入れやすくなると思うので、ここからどんどん広がっていけばいいなと思っています」。
個包装がなく必要な分だけ購入することができるため、斗々屋を日常的に利用することで結果的にフードロスやごみの削減につながります。プラスチックの削減にも貢献でき、自分にも環境にとってもメリットがたくさん。新たな買い物のスタイルとして国内外から注目を集めています。



ガラスの什器がずらりと並ぶ店内。
50坪ほどの売り場には、
約1000品目もの商品が陳列されている。

こちらのショーケースには
肉や豆腐、生麺、お惣菜などが並ぶ。

木箱に入ったオーガニックの野菜がたくさん。
まるでマルシェのような雰囲気だ。


そもそもなぜ、ごみの減量にこだわる必要があるのでしょうか。その理由はシンプルで、処理に多大なエネルギーを要するからです。その時に発生するのがCO2で、地球温暖化の大きな要因にもなっています。
家庭から出るごみの中でも特に多いのが生ごみとプラスチックで、後者は「海洋ごみ」として問題視されているというニュースを見たことがある人も多いはず。プラスチックは消費量が増えれば増えるほどエネルギーを消耗し、環境を汚染してしまいます。つまり、リサイクルよりもまずは、新たなごみを出さないことを考えるほうが根本的な問題解決につながるというわけです。



簡単・便利な
セルフの量り売りシステム

容器を持参したり、使い捨てではない容器を使ったりすることは、日本の昔ながらの豆腐屋さんのスタイルに近いものを感じます。対面販売のイメージが強い量り売りですが、そのままの形では現代に馴染みません。そこで斗々屋では、「寺岡精工」が開発したモーションセンサー「e.Sense」を導入することで、セルフサービスの量り売りシステムを実現。お客さんが什器から商品を取り出すと、その動作をセンサーが検知し、商品情報を最寄りの電子スケールへ送信します。購入したい商品を秤のうえに乗せると金額が表示され、初めて利用する人でも簡単かつスピーディーに買い物をすることができるという画期的な仕組みです。セルフレジや電子決済が普及しつつある現代の需要に合った、いいとこ取りの買い物のスタイルでもあるのです。


まずは容器の重さを量り、
商品を選んだら必要な量を容器に入れる。

次に商品の入った容器の重さを量り、
表示された金額を支払うという仕組み。

基本的にはセルフサービスで、
一部の商品のみスタッフが取り分けるものもある。



「三方よし」の精神と
サステナビリティ

売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」という考え方があります。これは、日本のビジネスの基礎となる部分を作ったといわれる近江商人の行動哲学。自分たちの利益だけを追求するのではなく、社会全体にとって良いことを考える斗々屋の姿勢はまさに、この考え方やSDGsに通じる部分があります。
ゼロ・ウェイストな量り売りのメリットはさまざま。個包装を行わないことで無駄なごみが減る。必要なぶんだけ買うのでフードロス防止にもつながる。そのほか作り手や消費者にとってこんなメリットも。
「作り手の方は効率化のために個包装にしているところも多いと思うのですが、個包装をなくすことで費用や時間を節約できるというのはありますよね。それにパッケージのコストがなくなれば、その分販売価格が安くなる場合もあります」。


商品には品種や産地が細かく記載され、
どこで誰が作ったかが一目でわかる。
農家の方のプロフィールなども紹介。


みんなで考えるキッチンと
ゼロ・ウェイストなレストラン

はじめにお伝えしたように、斗々屋京都本店には、日中はスーパーマーケット、夜はレストランといった二つの顔があります。レストランには決まったメニューがありません。生産者さんから仕入れる食材は日によって内容も量も異なるため、それに合わせてシェフがメニューを考えます。
フードロス対策として、オーガニックの野菜や果物はなるべく丸ごと、皮や茎なども余すことなく活用し、家庭でも実践できるような調理法なども提案。「例えば、食材をどうやって使い切るかとか、余ったものはどうすればいい?という時に、瓶詰めにすれば冷蔵庫に入れなくても保存できるといったことなどをお伝えします」。
また何気なく剥いてしまうことの多い野菜や果物の皮を、なぜ剥くのか?と考えてみると、無農薬であればその必要がない場合もあります。
「オーガニックの食材って、いわゆる普通のスーパーにあるものと比べて値段が高いことがあるんですけど、今後そういったものが基本となれば、いずれは値段も下がるはずです。オーガニックの食材が誰でも手に入れやすい価格になってほしいという思いはありますね」。
レストランのメニューには、日本だと通常駆除された90%ほどが廃棄されているのが現状のジビエ料理もあり、斗々屋で扱う食材は植物性のものだけに限りません。訪れる人に菜食を押し付けるのではなく、肉や魚、乳製品や卵などの大量消費の裏にある現実を伝えることで、一人ひとりがそれぞれのペースで考えて選ぶことをサポートしたいと考えているからです。



レストランのシェフを務める小川拓真さん。

テーブルナプキンは
オーガニックリネンを草木染めしたもの。

オーガニックワインとともに、
その日ある素材を使い
シェフが提案する料理を楽しむことができる。

オーガニックワインの種類も豊富。
棚の奥がレストランのカウンター
(全11席)になっている。
寺岡精工と開発した「斗々屋カート」を
ショッピングカートやテーブルとして使えるので、
立食も可能。


持続可能な社会のために
必要なこと

スーパーマーケットは、「食」についても考えるきっかけを与えてくれます。斗々屋では、肉や平飼い卵、チーズなどは、動物福祉に配慮した家畜の飼育管理をしている農家から仕入れたり、魚は市場に出回ることなく廃棄されている規格外の魚などを仕入れるようにし、畜産や漁業を改善しようと努力している生産者の商品は積極的に扱うようにしています。
「私自身はできるだけヴィーガンの食生活にしていますが、ヴィーガンだから全てが良いということではなく、色々な視点から考えることが大切だと思うんです。例えばジビエの場合、害獣として駆除されるものの9割が廃棄されている現状があります。果たしてそれは理に適っているのでしょうか。動物性の食材については、深く知れば知るほど“食べること”と向き合うことになります。結局、何がみんなにとって良いんだろう?ということへの答えはまだ出ていません。これからも追求し続けていきたいです」。
それぞれの街にあるスーパーマーケットと同じように、選択肢の一つとして「ゼロ・ウェイストなスーパーマーケット」が当たり前の存在になることができたら。
「消費者の意識も大切ですが、選択肢となるお店がなければそこで終わってしまいます。だからこそ企業は“つくる責任”をきちんと果たすべきですよね。そういった点を踏まえたビジネスは今後さらに求められると思いますし、大量生産・大量消費から脱却するためにも、システムチェンジが必要だと思います」ノイハウスさんはそう話します。
企業には商品やサービスを作るうえでの責任があるように、生活者である私たちにはそれらを使う責任があります。「責任」というと少々堅苦しく聞こえますが、人や環境といった他者を「思いやること=責任を担うこと」なのかもしれません。日々の買い物がどんなことにつながっているのか、考えてみることから始めてみませんか。





2人の店長のうちの1人、關(せき)つぐみさん。
「持続可能なスパイラル」とは
斗々屋のコンセプトのひとつでもある。
地球1個分の暮らしが可能になるような
ライフスタイルを目指す。


写真提供:斗々屋




Shop Data

斗々屋 京都本店
京都府京都市上京区河原町通丸太町上る
出水町252番地 大澤事務所ビル 1F
営業時間
スーパー: 10:00 - 19:00
カフェ:10:00-16:00
レストラン:18:00-23:00
定休日: 水曜日


https://www.instagram.com/totoya_kyoto/








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編/アノニマ・スタジオ

アノニマ・スタジオは、KTC中央出版の「ごはんとくらし」をテーマとしたレーベルです。食べること、住まうこと、子育て、雑貨・・・暮らしを少し豊かにしてくれる生活書を中心に、本づくりやイベントを行っています。



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編/アノニマ・スタジオ
定価 1650円(本体価格1500円)

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