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「台所にこの道具 ―宮本しばにの素描料理―」展



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「台所にこの道具 ―宮本しばにの素描料理―」展

料理家・宮本しばにさん ×
森岡書店店主・森岡督行さん
インスタライブトーク


 「台所にこの道具 ―宮本しばにの素描料理―」展の開催前日の10月25日、森岡書店の店内から配信したインスタライブ。森岡書店店主の森岡督行さんの朗読から始まったライブの様子をお届けします。「素描料理」とは、「道具」との関係とは、など話題は多岐に渡りました。



◆もくじ
ゆっくりと、焦らずに
職人が生み出す、用の美
「素描料理」とは精神性と実用性
道具も料理も自然の恵み
道具とのすてきな関係




ゆっくりと、焦らずに


清水さん(以下、敬称略)  司会をさせていただきます、清水です。 ゲストは『台所にこの道具』の著者・宮本しばにさんと、森岡書店店主の森岡さんです。
よろしくお願いします。

しばにさん・森岡さん(以下、敬称略)  よろしくお願いします。

清水  アノニマ・スタジオから出版されている、書籍『台所にこの道具』と『野菜たっぷり すり鉢料理』の本を中心に、明日から一週間道具の展示販売をやらせていただきますが、今日はそれについてのトークをさせていただきます。

しばに・森岡  よろしくお願いいたします。ありがとうございます。

清水  アノニマ・スタジオのホームページ上で、しばにさんにこの本の朗読をしていただいていて、それが非常に好評だということで。いきなりなんですけど、森岡さんも朗読をしてみていただけますか。

森岡  わかりました。

しばに  やさしくね、やさしく。

森岡  やさしく……じゃあ自分なりにやさしくっていうのを考えまして、読むようにしてみます、はい。

清水  何を読まれますか。

森岡  こちら『台所にこの道具』の54ページを読ませていただきたいと思います。

清水  よろしくお願いします。

森岡  心を静め、リズムを変えるすり鉢。
 「且緩々しゃかんかん」。
 ゆっくりと、焦らずに、心を落ち着けなさい、という禅語です。
 忙しがって毎日を過ごす中で、どれだけの人が台所で。且緩々とできるのでしょうか。料理は正直です。ありのままの自分が、良くも悪くもそこに現れます。
 ですから私は、ワサワサと落ち着かないときに、すり鉢を使って心を鎮めます。食材の音と香りを愉しみながら、一定のリズムですりこぎを回すと心が落ち着いてきて、時間の流れが変わります。心の余裕がないときこそ、こういう時間の変換が必要です。
 料理研究家の辰巳芳子さんが、あるインタビューの中で「ミキサーは粉砕。すり鉢でするのは融合です」とおっしゃいました。
 ミキサーやブレンダーを回すと、けたたましい音と共にあっという間に食材が粉砕されます。こちらが呼吸する間もなく、する人のリズムとは無関係に食材が細かくなっていきます。金属が食材を砕いていく音に、痛みさえ感じてしまうようです。
 一方、すり鉢を使うときは、呼吸に合わせてすりこぎを回します。食材や調味料が融合されていくときの、何と落ち着くことか。自分のペースを守りながら、そして食材の香りや音を味わいながら、穏やかに仕事が進みます。
 食材をする、つぶす、おろす、といった料理法は少し独創的かもしれません。すり目でごまとにんにくをおろしてナムルを作る。バジルや大葉のような香味野菜でパスタソースを作る。ドレッシングやマヨネーズを使って野菜を和える。
 私は、ホールスパイスをすり鉢ですり、自分だけのガラムマサラを作って愉しみます。
 そして、できるだけ手を使います。すり鉢の中で食材が混じり合うときの感触も心地よく、料理がおいしくなるような気がしますから。
 すり鉢は、料理する人に想像力を与え、理科の実験のような、ちょっとワクワクした感覚にしてくれる愉しい道具であり、台所を独創的に支えてくれます。機械に頼らずに料理することは、次世代の新しい暮らし方につながっていくのではないでしょうか。

しばに  ありがとうございます。

森岡  いやあ、著者の前で朗読をするっていうのは汗が出ますね。
 でもこういう経験は初めてなんじゃないかな。朗読をするっていうのはありますけども、著者を目の前っていうのはね。しかもこの距離で、目の前で朗読するというのは、また違った言葉の入り方があるなと、今思っているところです。

清水  しばにさんはどうでしたか。実際ご自分の文章を聞いてみて。

しばに  ありがとうございます。すごく良かったですね。なんだかほかの人が書いた文章かのように、聞きながら納得してました。

森岡  これきっと、読む人によってだいぶまたイメージとか違いますよね。声の質だったり、早さだったり。いや、おもしろいですね。こういうふうに読んだらやさしいのかな、どうかなっていう試行錯誤が、読んでいる短時間の中にもありました。




職人が生み出す、用の美


森岡  今読ませてもらったすり鉢も、ここで販売させていただきます。

清水  本に出ているのと、同じすり鉢ですか。

しばに  はい、これは森岡書店の展示のために、今回作家の加藤智也さんと一緒に考えて作ったすり鉢で、ここ(すり鉢の縁)におろしがついているんです。

森岡  あぁ、なるほど。

しばに  ソースとかタレとか作る時に、ここでにんにくとか生姜をおろせるんですね。で、今回はこの薬味寄せもついてるんです。これで薬味を直接器に落とせるように。

森岡  これもステキですね、竹のね。

しばに  奈良の竹なんですけど、茶筅のB級品をこれに作り替えているんです。

森岡  それはいいですね、活用して。

しばに  で、これは本山椒ですね。すりこぎには本山椒じゃないものも、もちろん世の中にはいっぱいあります。でも、本山椒は漢方にも使われるもので、こうやってすったら体に結局入ってくるんですよ。微量だけどね。なのでやっぱり安全で、いいものをと思って。関根さんという方が、山に入って切り出すところからひとりでやって作っているんです。

森岡  このすり鉢は、しばにさんがこういう形であったらいいなっていうのを今回作ってくださったんですか。

しばに  そうです。大きすぎず、小さすぎず、そしてたれが作りやすいとかね。私は家で、ここに汁を入れて器として使うんですけど。ここでしょうがとかすって、そのままつけ麺を食べるんです。

森岡  それ、いいですね。

清水  岐阜の多治見で作られたんですね。

――色は1色のみですかとの質問が来ています。


しばに  今回は茶色です。実際に見ていただいたらわかるんですけど、ちょっと赤みがかった茶色ですね。今回はこれ1色なんですけど、これが綺麗だなと思って。

森岡  すり鉢の中のこの流線型のなんですよ。

しばに  これね、加藤さんが9年かけて開発した刷り目なんです。

森岡  9年!じゃあ試行錯誤をして…

しばに  そうなんです。彼しかできないんですね、これ。窯元には、職人さんは何人もいらっしゃるんですけど、だけど彼にしかできないんです。これはまずは、スピーディーに擦れる、そして香りが立つ。そして右利きでも左利きでもすれるんですね。

森岡  なるほど。

しばに  ここの土も全然違うの。多治見の土を使ってるんですけど、もともと土の中にガラス成分みたいなのが入っているんです。なので、すり目が鋭利で、すごく擦りやすいんですよね。

森岡  この形に至るまでに何年…ってなりますよね。

清水  ふつうはまっすぐですよね。

しばに  そう。こういうの、江戸文様みたいでしょ。ちょっと綺麗で、皆さん模様が綺麗ねっておっしゃるんだけど、これで実用的にどうなるかっていうのを考えて、このデザインになったわけです。デザインが最初にあるわけじゃないんです。

清水  用の美ですね。

しばに  そうです、用の美です。

――大きさは6寸くらいでしょうか?


しばに  大きさは5寸です。直径が15センチぐらいです。

清水  一人分のお椀としてちょうどいいサイズですね。

しばに  あと、これのいいところは、すり鉢ですってたとえばごま和えを作ったりしたら、このまま食卓に出せるんですね。だから洗い物が少なくなるの。これひとつでできますので、美しい“器”として考えていますよね。

清水  大きいのと小さいの、全部で3種類ありますね。

しばに  大きいほうでだいたいね、豆腐一丁をつぶれます。ごま和えだったら、ほうれん草1束4人分ぐらいはこれでできます。小さいので2人分ぐらいできるかな。まあ1人分でそのまま食卓に出してもいいのかなとも思いますし。

森岡  機能美の、極致です。すばらしいですよね。

しばに  そういうふうに言ってくれたら、加藤さんが喜びます。


「素描料理」とは精神性と実用性


清水  さっきの朗読の中にもありましたけど、フードプロセッサーはやっぱり早くて便利でいいんですけど、すり鉢って昔から使われているものですよね。今回、ご用意いただいている道具全体のことも含めて、しばさんの「素描料理」っていう言葉の意味と道具の関係とか、そういうのをお話しいただけますか。

しばに  「素描料理」っていう言葉自体、私の造語で、辞書には載っていない言葉なので説明するのがとても難しいんですけれども。アノニマ・スタジオのウェブサイトで、2年前から「宮本しばにの素描料理」というタイトルで連載を書かせてもらっていて、自分でも探りなが2年間、「何が素描料理なんだろう」って自分でも考えながら書いていたんですね。で、最近その精神性がすごく大きいので、なかなか言葉にすっと表すことが難しいんですけれども、私はこうやって昔からの日本のいい道具を使うようになって、料理がすごくシンプルになったんですね。で、道具が50%ぐらい、いやもっとかな、仕事をしてくれるんです。私はもうアシスタント的にやればいいぐらいで、道具が本当に料理をおいしくしてくれるんですね。そうすると、自分の料理がどんどん変わっていったんです。
 「素描料理」という言葉になるそれまでの流れはちょっと長いので、今回は省きますけど、“飾らない”料理ですかね。飾らなくて、ちょっと禅に似たようなものなんですけど、静かな料理っていうのかな。自分が食べた時にその「きゃー!」じゃなくて「あぁ……おいしかった」ってほっとするような。だから「この料理が素描料理」っていうんじゃないんです。もう台所に入った時から、食事を終えるまでの自分の動き全部が素描料理なんです。どう考え、どう手を動かし、食卓にそのお皿を並べて。家族でも自分ひとりでもいいんですよ。食べて、そして「ああ、今日一日良かったな」って思える、それ全体が素描料理かなって今は思っています。
 具体的な料理名じゃないんですよ。

森岡  ひとつの流れと言うか。

しばに  はい。あとは、土台っていうのを考えたんですね。料理って、例えばこれを作ろう、あれを作ろうって“点”がいっぱいあるとして、それだと自分の頭の中で整理できないんですよね。だけど、それを“線”にする、つまりひとつ何か土台があって、そこから自分が自由に作れるようになったら、すごく料理が簡単になると思うんです。例えばフライパンを使って、冷蔵庫の中の野菜を見てこの野菜を今日使おうと思ったら、どの道具を使おうか、フライパンを使おうか、中華せいろを使おうか、いやいやすり鉢を使おうか…って、マッチングをするわけなんですけど、その時にその点じゃなく線で、その土台っていうのを自分が理解していたら、――その土台というのはうまく言えないんですけど、ベースのレシピみたいなもので、土台があればそこから自分が自由に料理をしていけるというか。フライパンがあったら、じゃあこれとこれを合わせようとか、すり鉢でじゃあこれを作ろうとか、ごま和えだったらこの野菜をとか、ごま和えの元がちゃんとできるようになったら、もうすごく広がると思うんです。じゃあ、今日はごま油をそこに入れてみようとか、生野菜をごま和えに入れてみようという発想にもなるかもしれない、夏だったら。どんどん自由になって行く。だから土台があったらその上は自由になるっていうか、プラクティカルな、素描料理のテーマかなと思うんです。だから精神性と実用性、料理の仕方にこの2つがあると思っていて。

清水  素描っていう言葉の中に。

しばに  そうです、はい。

清水  森岡さんもイラストを描かれたりしますけど、素描ってデッサンですよね。どうですか? そのデッサンっていう言葉と、しばにさんがおっしゃったような料理っていうのが合わさったようなイメージというのは。

森岡  今の話を聞いていて思ったのは、どんどん自由になろうとか楽になろうとか、そういうことで家電とかより便利なものとか、そういうものが生まれてきたんだろうなって思うんですけれども、しばにさんの話を聞いていると、むしろ昔の道具に戻った方が自由になれているっていうか、その方向がおもしろいなあっていうふうに感じていまして。でもまあ、確かにそうだよねって思います。と言うのはですね、椅子とか、筆記用具とかもそうなんですけれども、この椅子に座りたいと思ったところから始まるお話や打ち合わせとか、この鉛筆やこのちょっと厚めの紙に書こうと思ったところから始まる絵とかって、なんかちょっと上がるんですよ、気持ちが。

清水  うん、上がりますね。

森岡  フードプロセッサーを使うかすり鉢を使うか、どっちが効率がいいかって言ったら多分家電の方が効率はいいんですけれども、効率や時間とかそういうことでなくて、総合的なその先にあるものとかを加味しますと、すり鉢の方がいい、と言うことに立ち返ったそういう時期なのかなと思います。

しばに  フードプロセッサーの刃と、すり鉢のすり目って全然違いますから。顕微鏡で見たらね、バサバサって感情もなく切り込まれていて。だけど、すり鉢は細胞が壊れないので、味がやっぱり壊れないんですよね。香りがたったりとか、おいしさがそのまま出て来るっていうか。



道具も料理も自然の恵み


清水  今の森岡さんのお話と、しばにさんが以前おっしゃっていた話が僕の中で重なったんですけど。台所って家の中でこういう自然ものが集まってくる場所で、それらを効率とかじゃなくてどうするべきかっていうお話しを、ちょっとしていただけますか。

しばに  私が考えているのは、台所は自然が集まる場所だと思っているんです。家の中で一番自然が集まる場所。土や木、こういう布巾などはコットンつまり植物で、全部自然のものなんですね。食べ物も海から山からの自然の恵み、全部自然が集まって。で、台所に立つ人って、まあだいたいひとりで孤独な作業なんですけど、ひとりで立ってこの自然の中で自分がひとつのものを作るわけですよ。一皿を作るんです。すごいクリエイティブですよね。そして、大都会にいても台所は自然の中、まるで森のように過ごすことができるところなんです、本来はね。だけど、あまりに便利なものばかり集めて、面倒だからこういう道具を使うとか。そうするとどんどん砂漠化になるんですよね、台所もね。

森岡  なるほど、なるほど。

清水  自然の土地からの恵みに対して、プラスチックとかそういうものじゃなくて、土とか自然のところから同じように作られたもので料理をすると、森岡さんがおっしゃったような効率ではない何かがそこに生まれてくるっていうのが、なんだか分かるような気がしますね。

しばに  この鉄フライパンも鉱物として、土の中にあったものですよね。



森岡  きれいですよね。

しばに  森岡さんがさっきチャーハン作りたいって言ってましたけど、私がオススメしたのは、ジャスミンライスでチャーハンを作ると、パラパラのチャーハンができる。

森岡  パラパラの、いいですよね。

しばに  技術なくてもパラパラチャーハンできます、ジャスミンライスで。

森岡  フライパンをよく熱して。

しばに  そうそう、煙出してね。

森岡  それで油引いて、卵を入れまして、そこにご飯入れて。そこでね、どれだけパラパラにさせられるかですよね。ジャスミンライス入れたことなかったので、挑戦してみたいです。

しばに  この鉄フライパンは長野県の伊那に住んでいる、河原崎さんっていう職人さんが作ってくれたオリジナルなんです。

森岡  この形はどのように考えられたんですか。

しばに  彼のオリジナルはもっと浅いんですね。でも主婦としてはいろんなものに使いたいと思って、まずこの高さをちょっと高くしてもらったんです。そうすると、これで揚げ物ができるんです。揚げ物で主婦が一番困るのは、揚げ油ポットに注ぐ時なの。ぼたぼたこぼれるとすごい油っぽくなっちゃうんですよ、キッチンが。きれいにポットに移せないから、みんな嫌なの。だから片口をつけて。

森岡  なるほど。

しばに  これでもう、さ~って移せる。これだけで主婦は揚げ物しようって思うんですよ。偉大な片口(笑)。焼くとか炒めるっていうのももちろんしたいから、底を平らにしてもらって、持ち手も女性が楽に持てるようにしてもらって、ここもあんまり熱くならないんです。

清水  熱が伝わりにくい?

しばに  そう、ここが空いてるので(持ち手が輪っか状になっている)。ずっと揚げてたりしたらちょっと熱くなってくるけど、普通に炒めたりする分には全然熱くならないんですね。もうね、本当にこれ便利なんですよ。そういうふうに作ってもらうのに、一年かかりました。

森岡  時間がかかるんですよね。

しばに  そう、かかるんですよ。だからもう可愛くてしょうがないの。

清水  左利き用と右利き用があるんですよね。

しばに  そうなんです。皆さん、右利きだとフライパンを右手で持ったりするから左片口がいいんだろうって思われるんですけど、そうじゃなくて、(右利きの方は)右肩口のほうがいいんです。なぜかと言うと、こうやって炒めて(フライパンの柄を左で持って右手で炒める様子)、お皿に入れる時にはお箸や木べらを持ってこうやってやりますよね(フライパンを右へ傾ける様子)。だからこっちの方が良いんです。だけど私がいつも言っているのは、例えばキッチンの環境で、油ポットの置き場が右か左かっていう時に、どっちがいいか好きに選んでって。
 そしてね、職人さんがトントン叩いて作るフライパンはなぜいいかっていうと、ここ(底)がね、ちょっと凸凹してるんです。つるんとしてないんですね。これがなんでいいかって言うと、ここに油が染み込んできます、凸凹の間に。なので焦げ付きにくいんです。プレスでやるとまっすぐ(平ら)なので、焦げつきやすいんです。

森岡  なるほど。

清水  よくできていますね。職人さんがこう手作業で叩いて……

しばに  そうなんですよ。大変なお仕事よね。

森岡  用の美というやつですね。

しばに  そうです、これも用の美です。道具はなんて言うか、実用性もあり、そしてデザイン性もあり、プラス精神性がないとダメだと思ってるんですよ。精神性っていうのはね、例えば自分が道具を台所で使っているその時に、道具が教えてくれることがあるんです。うまく言えないけど、こうやって使ったらもっといいかなとか、こういうの作ってみようとか、どんどんアイデアが浮かんでくるんですよ。教えてくれるんですね、道具が。そういうふうに自分を高めてくれる、自分を成長させてくれる、育ててくれる。そういう道具は精神性がある道具だと思っていて、そういうのを選んでいます。

森岡  そうなんですね。

清水  精神性までは考えてなかったですね。でもいい話ですね。


道具とのすてきな関係


森岡  よく言われますけど、私たちの生活は道具を使うことの連続なので、そのひとつひとつの時間に精神性や何か意味があったら、それは素敵な時間がずっと流れていくということですからね。

しばに  そしたらね、あの台所仕事が嫌だなって思わなくなると思うんです。めんどくさいとか、買って済ませちゃおうとか、そういう気持ちにならないと思うんですよね。

森岡  確かに。楽しいですもんね、こういう道具を使うっていうのは。

しばに  本当にそうなんです。だから私、道具に名前を付けるのね。

森岡  名前ですね!

清水  どんな名前を付けるんですか?

しばに  あの煮込み鍋あるでしょう?あれはね「茶坊主」っていうの。

森岡  茶坊主??

しばに  なんか茶坊主って言うと笑われるんだけど、私は「お坊さん」のイメージなんです。

森岡  ものに名前を付けると、ちょっと違ってくると思うんですよ。例えば船とかだったらなんとか丸とか付くじゃないですか。でも、自動車になかなか名前付けないですよね。自分の家の車に、「タカシ」とか「ペーター」とか「ジョージ」とか「タケヒコ」とか……

しばにさん・清水さん  (笑)

森岡  でも船とか飛行機とか、昔は名前を付けてたと思うんですよね。やっぱり名前が付くだけでも距離が大分近くなりますよね。

しばに  愛着がわきますよね。

清水  道具のようで、道具じゃない感じですよね。

森岡  これ、なんて名前付けます?

清水  フライパン、何ですかね。

しばに  てつろう。

森岡  てつろうだ(笑)

しばに  「てつろう」って名前を付けたらね、いつも使う時に「てつろう、今日もよろしくね」って言ってあげるの。

森岡  いいですね!

しばに  そうすると本当に頑張ってくれるんです。そのぐらい、職人が魂を込めて作ったものだから。魂が入ってると思う。

森岡  いいですね!

しばに  信じてる?(笑)

森岡  うん、うん、いいです、いいです。

しばに  そう思ってるんです。だから私、名前付けてねってみんなに言うの。

森岡  いいかもしれないですね。これ(土鍋)は?

しばに  これじゃないんですけど、一番最初に私が撮影に使う土鍋を探していた時に、土楽どらくと出会って、その土楽の8代目の福森道歩みちほさんから土鍋をいただいたんです、頑張ってねって。その時に彼女が「うちの猫の名前と同じ『花子さん』にして」って言ってくれて。それで花子さんって名前を付けて、花子さんと一生懸命仕事をした思い出があります。



森岡  なんかね、家族みたいになりますよね。

清水  じゃあ、しばにさんのうちにいる土鍋は「花子さん」なんですね。

しばに  そうなんです。(笑)
 展示期間中はできるだけここにいるので、何か分からないこととか、道具のこととか料理のことでも、お話しができたらいいなって思います。

森岡  緊急事態宣言が開けていますので、この機会にぜひ来ていただきたいです。ちょっと前までだったらなかなか言えなかったんですけども、もう本当ね、来てください!って言えるのが一年半ぶりぐらいですから、本当に長かったですよ。インスタライブも元々は、コロナになってから始まったことなので、こうして「来てください」って言えるっていうのは、ありがたいことだなと今、思ってます。

しばに  来てください。

森岡  来てください。

清水  数に限りがあるものもあるので、早いもの順ということで。

森岡  入手困難なものも多いですね。

しばに  一年待ちとかね。
 すり鉢はもう本当に一年待ちで、ついこの間やっと入ってきたばっかりで。土鍋などもぜひ、手にとっていただくだけでも。この本『台所にこの道具』は、道具へのラブレターを書いたつもりです。『すり鉢料理』の本はすり鉢愛。どちらもレシピ本が入っています。

清水  これをきっかけに、この本からちょっと台所見直したりとか、自分の道具を見直したりとか、料理をどういうふうに作るのかっていうのを見直すキッカケにしてもらえるといいですよね。

しばに  いいですね。

森岡  実際、あのコロナの後の社会っていうのは、そういうところに集約されていくのかなって思います。

しばに  最後にひとつ言いたいのは、今の時代だからなんでもお金があれば買えるし、お弁当もあるし、テイクアウトもある。だけど、だからこそ、自分の手を動かして料理をしてもらいたいなと思うんです。そのために道具があって、その道具が本当にいい仕事をしてくれます。そんなに難しい料理じゃなくて、簡単な料理をささっと作るにしても、道具が全部やってくれるので、この時代だからこそ昔の良き道具をまた取り戻してもらいたいなって思います。

清水  改めて宮本しばにさん、森岡さん、ありがとうございました。

しばに・森岡  ありがとうございました。






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