title/hyoutan

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「あのう・・・」
 男性のほうが、恐る恐る話しかけてきました。
 水色のシャツにグレーのVネック、日に焼けた面長のひげ面、少々たれ目。女性のほうは、さらさらのおかっぱにメガネ。口を柔らかく結んで、彼を見守っているように見えましたが、2人共、知らない相手です。
「間違ってたらすいません、あなた、××大学の生徒でしたよね!」
 私は、勢いに押されるように頷きました。でも、卒業したのって15年近くも前の話なんですけど。

「やっぱりそうだ・・・・」
「???」
「ゴメンナサイ!」
青年は、今度はブンと頭を下げました。

「実は僕、1年生の時に、あなたに一般教養の経済学のノート借りたんですよ。それ、テスト前で。なのに、僕がずいぶん返さなかったもんだから、あなた、すごく怒ったんですよ」

 経済学? 自分がそんな授業をとっていたことさえ記憶にないけど。

「ごめんなさい。私、覚えてないです。もう昔のことですし、いいですよ。それより、私たちって友達だったんでしょうか?」
「違うんですけど。昔、あなたのノートを覗いたら、字が読みやすそうで、それで、友達に頼んで話をつけてもらって借りたんです。でも、ものすごく怒らせちゃって。廊下ですれ違っても、僕うまく謝ることができなくって、顔をあわせないようにしちゃったりして。そのまま卒業になっちゃって、今日まで何回も、あなたが夢にでてきた。あのとき学食でご馳走して、話ができていたらって……」

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