第6回 エミリーさんの猫
Caravan という雑貨屋さんが、
少し前まで東ロンドンにあって、
ちょっと色褪せた、優しい風合いのヴィンテージファブリックや
うさぎや鳥などの動物モチーフのあれこれ、
パラシュートの生地を再利用したという
ふんわりしたワンピースなど、
乙女の琴線をざわざわさせてくれるアイテムに彩られた
夢のように素敵な場所だった。
オーナーのエミリーさんは、
ヴィンテージのぬくもりに溢れた、
甘くて優しいスタイリングを得意とするインテリアスタイリストで、
アンティークのマーケットで、
素敵なものを見つけてくる達人でもある。
そんなエミリーさんのお店で、いつものんびりと迎えてくれていたのが、
オレンジ色のはちわれ猫、バグパス。
おしゃれなバンダナを首に巻いて、気が向けばレジの上でごろり。
お店の上にあった事務所には、
彼用のアンティークバギーがしつらえられていて、
まるで王様のように、そこでよく午睡を楽しんでいらっしゃった。
「子供の頃”Bagpuss”というテレビ番組が大好きだったの。
エミリーちゃんっていう女の子が、不思議なお店屋さんをやっていて、
そこにいるショップキャットがバグパスって言って。
だから、どこからかこの子がやってきて、お店を気に入ってくれた時、
これはバグパスに間違いないわって思ったの。」とエミリーさん。
バグパスに会いたいのもあって、足繁く通って居たキャラヴァンは
エミリーさんがママとなったのと同時に、
オンラインショップへ切り替わったけれど、
そこでも彼女のセレクトセンスは健在で、
目を楽しませてくれるあれこれで溢れている。
そして、残念ながら、バグパスももうこの世に居ないのだけれど、
時々、彼女のお家に遊びに行くと、
今度は、小さくておしゃまな女の子と、
さび柄猫のムースが迎えてくれる。
おっとりしていたショップ猫のバグパスと違って、
一人と一匹は、呆れるほど元気に跳ね回って
私たちを微笑ませる。
それを見ながら、
でも、もういないあの猫のことを考えていたら、
同じタイミングで、「やっぱり特別な猫だったわね」と、
しみじみ、エミリーさんが言った。